ラプラスの日記

@ns_ky_20151225

ラプラスの日記

「おーい、ピエール」

「お、ひっさしぶりー」

 夏休み明け、晴れた朝でした。ランドセルがガチャガチャ揺れています。まだ暑いけれど、かれらには関係ありませんでした。学校に近づくにつれなかよしグループは大きくなっていきました。

「宿題やった?」

 中のひとりが聞くと、色んな答えが返ってきました。ぜんぶやったという者、工作以外はやったという者、まだだけど、初日にすぐは集めないさという強者もいました。

「おれ、日記わすれちゃってさー」

 べつの者がいうと、みんなうなずきます。

「毎日は書けないんだよな。おれも虫食いになってる」「怒られるかなあ」

 しかし、ピエールと呼ばれた少年だけはにこにこしていました。

「なににやにやしてんだよ」

「おれはできてないけど、できてる」

 わけの分からないことをいうピエールをみんな取り囲みます。「どういうこと?」

 ピエールは得意気にこう説明しました。

「いいか、キャッチボールするだろ? 投げたボールがどこに行くかはわかる。そうだな?」

 みんなそろってうなずきました。

「投げたものは前に進みながら落ちる。そういうことになってるんだ。世の中、いや、地球、もっと大きく宇宙もぜーんぶ『そういうことになってる』はずなんだ」

 なにがいいたいんだろう? みんなそろそろ首をかしげています。

「つまり、ある瞬間のボールのある所と動く勢いがわかれば、行く先は分かる。そうだな?」

 また、そうだな? がでました。

「宇宙も同じさ。ある瞬間の、すべての物のある所と動く勢いが分かれば、後どうなるかぜんぶ分かる。だから、宇宙は始まったときからなにがどうなるかみんな決まってるんだ」

 みんな完全に置いてきぼりでした。それでもまだ賢い方の子が聞きました。

「それと、日記とどう関係するの?」

「だからさ、日記なんか書いたってしょうがないんだ。どうせいつか宇宙すべての物の場所と動きが分かるようになる。そうなったら毎日の記録なんか意味ない。だって知りたいとこまで計算すれば過去も未来もなにもかも分かるんだもん。だからむだなことはしないのさ」

「ラプラス先輩、かっこいい。悪魔みたい!」

 低学年の子は、なんだかわからないことをいうピエールをほめたたえました。


 でも、ピエールは知りません。新学期からくる先生のことを。


 その人はハイゼンベルク先生というのでした。


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