漂流記

DITinoue(上楽竜文)

漂流記

 3月21日(春分の日) いつも通り、漁船に男一人乗って、大海原をかけた。

それから、帰る予定だったけど、予想外の事態が起こった。船の沈没だった。救命ボートを出したのがギリギリのタイミングだった。

これが、真っ白のノート、「漂流記」の最初のページ。あと何日たったら救われるんだろう。


 3月22日 今日は、全く寝ることができなかった。何とかまぶたを閉じると、ボートから落ちてサメに食われる夢を見た。

船からはごくわずかのものしか持ってくることができなかったことに、朝気づいた。実質的に、サバイバル生活はこれからだ。

開いているページに、持ち物をメモることにした。これは、漂流開始当時のものだ。リュックサックの中身と、船からとってきた最低限のものだ。これで一体何日持つのだろう。


持ち物メモ 

・衣服 着替え(Tシャツ3枚、タンクトップ3枚、ズボン4枚、パンツ4枚)、リュックサック、ベルト、麦わら帽子

・食料 ミネラルウォーター2ℓ×3、麦茶1本、ミカン8個、バナナ5房、カップラーメン1個

・釣り具 釣り竿、釣り糸、釣り針、釣り餌(ゴカイ、イソメ、ミミズ)、ナイフ、バケツ

・その他サバイバルグッズ アーミーナイフ、懐中電灯、乾電池、合羽


 3月22日(番外編) 今、しっかりと手が震えている。鉛筆を持つ手はもうダメで、字はグタグタだというのは見ればわかる。車酔いには強いほうだったが・・・・・うえっ、今来た。おろろろろ・・・・・・。


 3月23日 ここは、まずどこだろうということを眠る前に考えてみた。昨日の夕方は、やけに波が強かった。おかげで、嘔吐物が波で帰ってくることもあった。全くだ。かなり流され、陸から遠ざかっている感じがあったから、全く分からない。う、また吐き気の野郎が来たから、今日はお終い・・・・・おえっ。


 3月24日 漂流4日目、水がそろそろ切れ始めた。食糧は、カップラーメン1つとバナナ。お湯は海の藻屑もくずとなってしまった。ちびちび食べていた、ミカンももう底を突いた。くそっ、この状況・・・・・誰か打破してくれないか?

ああ、帰りたい。家に帰って釣り仲間と話したい。テレビを見たい。バイトで働きたい。そして、みんなで飲みたい。


 3月25日 今日はいよいよ釣りにチャレンジすることにした。運良く、釣り具とエサは持っていたので、早速トライだ。

だが、糸を下ろしている間に。嘔吐ってやつだ。海では天敵だなぁと今更ながら感じた。うえっ・・・・・

(5分後)釣れた。嘔吐物に魚が寄ってきたおかげで、2匹釣ることができた。早速さばいて、食べる。沖合の魚はほとんど毒がないはずなので、早速食べた。みずみずしくてとても美味しかった。


 3月26日 最近、日時の感覚が無くなってきた。この日記(日誌?)がないと日付が分からない。すっかり、野生ぐらしになってきた気がする。


***今日の釣果***

1匹・中くらい。刺身にしていただいた。アジのような淡い青色の魚。脂の具合が良くて、美味しかった。

***********


 3月27日 漂流から一体何日だろう。船を見つけることができない。ずっと、どうやって生活するかを考えていたが、助かることも考えておかないといけない。

今気づくと、スマホがあった。そのせいで、持ち物リストには書いていない。てなわけで、日に当たりやすいところで、合羽をかけて乾かすことにした。電源よ、どうにかかかれ!!


 3月28日 水が切れた。非常事態に、戸惑ったが落ち着こう。落ち着け、落ち着け、落ち着け。

サバイバル三原則というものを一度聞いたことがある。その三原則というのがさぞや心に残っている。「意志・物資・技術」だ。意志が強ければ生き残れない。その上で、物資を使い、技術(知識)でサバイバルせよというものだ。知識を働かせないとな。


 3月28日(番外編) 水を作る方法を思いつた。魚を入れる大きめのバケツに、海水をたくさん入れる。そして、次に重めの重りを入れたカップラーメンの容器を中心に置く(固定する)。そして、バケツにビニール袋をかぶせる。最後に、カップラーメンの真上になるように、重りを置いた。これで、海水を飲めるようになった。

これは、簡単な原理だ。水の蒸発を利用する。海水が蒸発すると、その水滴が集まるところは重りを置いて、凹んだところになる。ここまでは分かるだろうか。そして、水滴がたくさん集まると、重みでカップラーメンの袋に落ちていくというものだ。ついでに、全て蒸発すると、塩が残ってくれるから、塩分の心配もない。


 3月29日 どうやら、もうじき3月が終わるらしい。何やら、小さな漁船が遠くに通りかかったので、大急ぎで助けてと叫んだ。服を脱いで、頭の上で振り回した。でも、見つけてくれなかった。見てくれないという絶望感は途方もないものだった。ちょっと思うことがあって、海に潜ってみた。たまたま、リュックサックの中にゴーグルが入っていたから、水の中でもよく見えた。


***今日の食べ物***

ワカメかコンブか分からんが、多分安全な海藻。潜ってゲットした。それには、小さなエビカニもいて、カルシウムをとることができた。栄養って大事。

************


 3月30日 なぜか、今日の朝、腹痛に襲われた。船酔いの次は腹痛って勘弁してほしいんだけど・・・・・(涙)昨日の海藻がいけなかったのだろうか。それとも、エビカニに毒があったとか・・・・・?どっちでもいい、助けてくれ。腹痛死ねー!


 3月31日 何?!3月が終わり?!もうここまで来ても、誰にも見つからないという悲しみ。最悪だ。釣りの餌用にためておいた、魚の内臓が腐ってきたらしい。臭い臭いわけなので、海にポイと捨てておいた。何かすっきりした。


***今日の食べ物***

カモメ(?)ボートにカモメが止まってきた。そのうち1体が弱っていたのだ。空腹感があり、思わず手に取った。どうやら、病気などでは無さそうなので、食べることにした。鶏肉だ鶏肉♪もがくカモメの姿が痛々しかった。後々、後悔しそうだ。

************


 4月1日 昨日の出来事だが、夕方にとんでもないやつが襲ってきた。サメだ。イタチダメのようだった。サメがどんとボートのぶつかってきた。危うく海に落ちそうになったが、ギリギリで耐えた。20分ほど、粘った後、サメはどこかへ行った。生ごみを捨てて、サメが臭いをかいできたのだろう。ゴミは夜に捨てることにした。そして、捨てたあとは出来るだけその場所を離れるように。


 4月2日 気づけば、エイプリルフールを過ぎている。日記に書いてみたいと思った「嘘」を書くことができなかった。サメのことでいっぱいだった。その日はサメのことばかり考えていて全く眠ることができなかった。

小さなゴミ山に遭遇した。そこで、しばらくボートを止めて、ゴミを拾い集めた。ホウキとみられるものは、ナイフで削って、モリにした。たも網があったので、それも活用。バケツも拾って、ウォーターサーバーももらった。大きな収穫だ♪


 4月3日 酒を飲みたい。最近はそのことをずっと考える。そういえば、スマホを乾かし終わったときにサメに襲われたから、スマホの電源を付けていなかった。電源を入れてみると、最悪だった。どうやら、サメ事件の時に波にぬれたようだ。外部との通信手段が、1滴の海水で切れてしまった。ショックだ。


 4月4日 嵐がやってきた。大波と雨と強風が襲ってきた。最悪で最悪で、ただ最悪だった。昨日のスマホの件がショックだったこともあり、特に何もすることはないなぁと思い、着替えを毛布にして、寝ていた。起きたら、パッと気づいた。ボートの屋根に魚の肉を干しているのだったと。ほとんどは波に流されていた。残っていたものも、干し魚とは言えないものだった。またまたショック!


 4月5日 やはり、服が臭くなってきてしまった。そろそろ洗濯をしようかと思った時にハプニングが重なっていたから、結局一回も洗っていない。陸じゃないから、ハエはいない。良かった、ハエは大嫌いだからな。


***洗濯干し***

ウォーターサーバーにコツコツ溜めていた真水を使って、ペチペチと衣類を叩いて洗濯をした。自作の石けんを使って、きれいに洗い、救命ボートの屋根に干した。

**********


***石けん作り***

一度、甥に付き合って、「サバイバル石けん作り体験」に参加したことがある。その時に覚えたことだが、油と強アルカリを混ぜればできるらしい。油は魚から取って、強アルカリは灰を水でかくはんして、出てきた上澄みをとると炭酸カルシウムを出せる。そっからは、書くのめんどいから方法を書かないことにする。あぁ、眠い。

***********


 4月6日 最近、中々釣れないから、思い切って市販の釣り餌を使うことにした。イソメを針にさして、ぽちゃんと放り込むと、すぐに手ごたえを感じた。

「来た!」

思わず、そう口にしてしまった。それは大きめの魚で、カツオのようにも見えた。そこら辺のやつの小さいものだろう。これは収穫だ。

久々に、海に潜ると、海藻の畑があったから、潜水を5回に分けて、半分ほどをとってきた。それにカツオを混ぜ、蒸留器でとった塩をかけると、もう絶品だった。


 4月7日 今日の日記は、。やったやった!!!!長い長い漂流生活の日誌もこれでおしまい。サメに襲われた時や荒らしに遭遇した時はどうしようかと思った。同時に、様々なことを体験でき、自分の知識を見直すいい機会だったなぁと思う。


 4月7日(最後の漂流記) 船上では毛布にくるまって寝ていた。自宅へ戻ると、まずは風呂に入った。いつも、風呂は5分も入らないが、今回は20分以上入った。風呂と洗濯はこれほどありがたいものなのかと、今更に思ってしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

漂流記 DITinoue(上楽竜文) @ditinoue555

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ