冬の終わり
紫月音湖*竜騎士さま~コミカライズ配信中
ある医者の日記
11月5日
いつもより、顔色がいい。昨夜食事に混ぜた薬が効いたのかもしれない。材料入手に少々手間取るが、ようやく見えた回復の兆しだ。このまま良くなることを願う。
11月9日
材料を入手。3日も空いてしまった。そのせいか妻はベッドから起き上がれず、食事も摂る元気がない。私の声にかすかに首を動かすだけで、もう声も出ないようだ。入手した材料で急ぎ作った薬を飲ませる。明日になれば元気になって、また私にあの美しい笑顔を見せてくれるはずだ。
11月10日
容態は思わしくない。スープを用意するが、一口しか飲まなかった。薬を飲み込むのにも時間がかかる。数日前の回復が嘘のようだ。
11月12日
激しい咳と共に吐血。激痛に耐えきれず、自身の腕を掻きむしる。このままでは危険なので、鎮痛剤を打って強制的に眠らせる。寝顔は幸せそうなのでホッとした。せめて夢の中では、痛みや苦しみを忘れて穏やかに過ごしてもらいたい。
11月16日
激痛に目を覚まし、鎮痛剤を打つ日々の繰り返しだ。薬もまるで効かない。このままでは妻は死んでしまう。だめだ。だめだ。私を置いていかないでくれ。必ず治すから。君を蝕む病魔を、必ず私が追い払うから……私をひとりにしないでくれ。
11月20日
もう長いこと妻は眠っている。少し鎮痛剤の量が多すぎただろうか。それでも穏やかな寝顔を見ていると、ほんの少しだけ安心する。痛みに呻き嘆く妻の姿は、痛々しくて見ていられない。妻が幸せならば、もう少し夢の世界を楽しませてあげたいと思う。
11月22日
妻はまだ眠っている。庭から妻の好きな花を摘んで、瓶に生ける。花瓶がどこにあるか分からなかったので、使っていない薬瓶に生けた。許してくれ。
12月3日
妻はまだ眠っている。そろそろ雪が降りそうだ。部屋をずっと閉め切っていたので、少し悪臭がする。このままでは妻の体に良くないと思い、1時間ほど換気をした。風邪を引かないように毛布を多めに掛けてやると、妻が少し動いたような気がする。もう少ししたら目を覚ますかもしれない。
12月10日
妻はまだ眠っている。顔がぼやけて見えるのは、私が疲れているからだろうか。少し仮眠を取ることにする。
12月12日
寒いと思ったら雪が降っていた。どうやら丸二日も眠っていたらしい。妻はまだ眠っている。
12月16日
薬瓶に生けた花がすっかり枯れている。けれど替えの花が咲いていない。春になるまで待ってもらおう。その時になったら、妻も目を覚ますだろう。一緒に花を買いに行くのもいいかもしれない。
12月20日
妻はまだ眠っている。
12月23日
妻はまだ眠っている。
12月27日
妻はまだ眠っている。
12月31日
……もう、妻と一緒に眠ろうと思う。
冬の終わり 紫月音湖*竜騎士さま~コミカライズ配信中 @lastmoon
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