幼馴染に振られたら、どう接すればいい?

らかもち

第一話

あや、好きだ。付き合ってほしい」


しばらくの沈黙。


「ーー悠真ゆうま、ごめん。付き合えない」


そう言って、彼女はすぐに走り去ってしまった。


僕の初恋は、あっけなく終わった。


*****

『綾?もう置いていっちゃうよ?』



『っ、ちょっと待ってよ〜』


白いワンピースを見に纏い、麦わら帽をかぶっている彼女。



『お、あそこを登ったところかな?』



『っもうすぐ着きそう…?』



『まだまだ!見えてきただけだよ。もうちょいかかる』



『ぇえ〜…』


彩はガクンとした様子で、力なく呟いた。


『休憩にしようよぉ〜、こんなんじゃ溶けて死んじゃう』


8月の晴天。強い日差しが差し、気温は30度を超えている。

確かにこれはきつい。


『そうだね。ここらで一旦、休憩しようか』



『そうそう!一日中、ずっーと移動してもうくたくただよ〜』

手を扇子代わりにパタパタとしながら、彼女は微笑む。


『急に花畑に行きたいっていうから』



『いいじゃんいいじゃん、せっかくの夏休み、どこか二人だけで一緒に行ってみたいって思ってたんだ!』


思わず、ドキッとした。

彼女の頬が赤かったのは、夏のせいだろうか。



『まぁ、家にいてゲームするだけじゃ退屈だしな〜』



『そうでしょ?ということで、ひまわり畑に向かって出発!』

ベンチから腰を上げて、どんどん進んでいく。



『お、おい!もういいのか?まだ全然休憩してないぞ?』



『大丈夫なのです!』


昔から、元気なところは変わらなくて。


今朝は憂鬱だった花畑観光が、楽しみになっている自分がいた。

*****


あの告白以来、綾は僕を避けるようになった。

一緒に登下校をすることも無くなったし、学校でも話す機会は無くなった。


僕から声をかけても無視。


「綾、また一緒に—」



「……」


ドアの開く音。


「綾?もう次の授業始まるから、教室移動しなきゃ」



「そうだったね…。ありがとう、今から行くよ」


こちらへ向かってきて、僕の隣を通り過ぎる瞬間、確かにこう言った。



『ごめん』



何がごめんなのだろうか。僕を振ったこと?

その理由を考えても、全く検討がつかなかった。



「わからないよ…。綾…」



*****

キンコンカンコーン

授業終了のチャイムが響く。


放課後になった。

クラスの大半は部活に所属している。各々の運動や活動に取り組むため、体育館や校庭、部室へ向かう。


僕は部活には所属していないが、美化委員に入っているため、掃除を行う。


二人でやる仕事だが、『ごめん、大会が近くて部活に集中してもいいかな?』ということで、一人で行っている。断ることは難しいだろう。


ッガタ


「ん?」


机を動かしているうちに何かが落ちたらしい。


「...っげ」


そこは綾の席だった。

落ちてきたのは一冊の手帳。

ちょっとだけ中のページが見えてしまっている。


綾のものかな?勝手にみるの悪いし、机の中に戻しておこう。


しかし、戻すことはできなかった。



『7月3日、



中をのぞいてしまった。


ドッドッドッド

廊下を駆ける音が聞こえる。


ッガラン

教室のドアが勢いよく開かれる。


そこに立っていたのは、綾だった。

教室は静寂に包まれる。


「ど、どうしたの?」


「........」


彼女は無言で、自席までいき、机の中を漁る。


「......悠真、私の席にあった手帳しらない?」


焦った様子で、僕に問いかける。


「......見てないよ」



「......わかった」



「僕、もうちょいここの教室で掃除するから、一応捜してみようか?」



「......ありがとう。もしも見つかったら、私に渡してくれる?」


ッコク。頭を縦に振る。


「でも、



「......わかった」



「それじゃあ、またね」


綾が教室から出ていったことを確認して、机の中に隠しておいた手帳を取り出した。


*****

自分の部屋の椅子に座り、綾の手帳をカバンから出して広げる。

表紙には、『日記』と書かれていた。


さっき見たところから、日記を読んでいく。


『7月3日、私は悠真に告白された』



『しかし、その告白を受け入れることはできない』



『私は悠真が好き』



「じゃあ、なんで…」



『しかし、私には病気がある』



「…え?」



『胃がん。ステージ2B。5年生存率は67%。5年後に100人中43人がなくなるくらいの確率。医師の方は、大丈夫って言ってくれているけれど、本当に助かるなんてわからない。手術は、もう少ししたら行われるらしい。』



「……なんだよそれ」



『悠真には、私に縛られないでほしい。自由な人生を送ってほしい。だから、私は嫌われなくちゃならない。』


僕は本を閉じた。綾にメールを送る。

日記をもって、僕は出かけた。


*****

午後7時、あたりすっかりは暗くなって、公園の街灯が照らされている。


ベンチに座って、僕は綾を待っている。


砂利を踏みつける音が聞こえる。



「......ごめん、待った?」



「いや、大丈夫。僕も今きたところだよ」



「わかった。じゃあ、その手帳返して」



「返さない」



「...何言ってるの?」

戸惑っている様子。



「君の日記を読んだ」



「....っ、何で読んだのよ!」

彼女は声を荒げる。



10秒間の静寂。



「僕は綾が好きだ」



「...付き合えないってこの前も言ったでしょ...」



僕は綾を見つめる。



「......わかった。本当のことを言うね」



「......私と一緒にいたら、自由を強制される。私は出かけられないし、しばらく入院しなくちゃならないかもしれない。何が起こるかわからない」



「関係ない!僕が望んでいるんだ!」



「...っ」



立ち上がり、綾を抱きしめる。



「君が胃がんを患っているのも知っている。僕に迷惑をかけたくないことも。それでも、僕は君を支えたい。今後、ずっと一緒にいたい。なんでもする」



「......ずっと迷惑かけるよ?」



「いいよ」



「......出かけられないかも」



「問題ない」



「......死んじゃうかもしれない」



「綾と一緒に居たい」



「でもっ!っ…あ、ぅ、ぅあ……!」



大粒の涙がこぼれる。



「今度からはきちんと相談してね…?」



「っ…わかった…!」



人に相談するというのは案外難しい。

今後も人生の壁にぶつかることがあるだろう。

でも、きっと乗り越えていける。


なぜなら、僕は一人ではないのだから。


******


「わぁー、綺麗だね?」



一面に広がるひまわり畑。


3年前と同じ風景。


麦藁帽と白いワンピースを身に纏っている綾。



「本当だね」



綾は何かを察したようにして、僕の方へ近づいてくる。



「ずっと、言いたかったことがある」



さっきとは打って変わって真剣な眼差しで僕を見つめる。



「......あのとき、私を助けてくれてありがとう!」



ひまわり畑に、一輪の美しい花が咲いた。




******

ここまで読んでいただきありがとうございました!

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KAC2022四作目でした。

結構ぎりぎりになってしまいました;;


KAC2022も終了ということで、4月の中頃から長編の連載をできればなーと思います!その際はぜひ、読んでいただければ幸いです!

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幼馴染に振られたら、どう接すればいい? らかもち @Karamochi

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