東西対立? 転校生獲得バトル高校

「橋向こうはな、ご近所付き合いが濃密で、皆家族みたいなもんだ。そんで、畑が多いから新鮮な野菜のお裾分けが貰える」

 あれから一週間が経過した。

 山本が俺の隣でイキイキと語る。

「うん! 昨日、佐藤さんからたくさん春キャベツ貰ったよ。すげー甘くて美味しかった」

 俺は橋向こうである仲田町での生活にすっかり馴染んでいた。

 周囲のご近所さんたちが温かく迎えてくれて、何でも助けてくれるお陰である。話している俺たちに、村瀬が参加してきた。

「夏はトウモロコシが美味いんだよ。近くの人と集まってバーベキューするの」

「楽しそう。俺、橋向こうに引っ越してきてよかったかも」

 理想的な田舎の光景に気持ちが流れはじめたところで、宮野が山本を制した。

「西原、カラオケ行こうぜ。街中に新しい店ができたんだよ」

「マジで。行く行く」

 橋こっちは便利だ。

 カラオケなんかのレジャーが充実しているし、見慣れたカフェの看板もある。アパレルの店は結構洒落ていて、ふらふらっと遊びに行っただけで一日潰せる街並みだった。

 金崎が俺の机に手を乗せた。

「シュタバの新作のピーチマキアート、美味しかったよ。ついでに飲みに行かない?」

「へえ、美味そう」

 生活のリズムとしては、橋こっちの方が合っている。いつでも楽しいものが近くにあって、新しいものが手に入る。

 山本がカッと野性的な牙を剥いた。

「待てや! カラオケとカフェ行くんなら俺も連れてけや!」

「おうよ! 手土産にお前ん家の母ちゃんのおはぎ持ってこいや!」

 宮野もメンチを切り返す。

「西原! お前橋向こうと橋こっち、どっちにするんだよ!」

 彼らに迫られて俺はいつも適当な苦笑いを返していた。

「んー、まだ保留中」

 一週間経った今でも俺は前の学校の制服を着ていた。

 一週間経った今だから分かるのは、この学校が半分に分かれていることが、そんなに問題でもない、ということである。

 見ていて分かるとおり、本気で相手を嫌悪しているわけではない。ただ、橋の対岸がライバルというだけなのだ。

 勉学で勝負しスポーツで勝負し、校内のイベントで勝負する。彼らは公式ライバルの存在があるからこそ、全力のしょうもなさで切磋琢磨するのである。同じ地域に属している人間はチームとして受け入れられるから、タイプが違う生徒がいようとくだらないスクールカーストは生まれない。


 この学校は、半分で分かれているように見えて、どこの学校より心が一つなのである。


「いっそ両方の制服を作って、日替わりにしよっかなあ」

「そういう曖昧なのが、いちばんだめなんだよ!」

 俺の呟きは、橋向こうと橋こっち、両方から同時に叱られた。


 俺はどちらにも属さない半分の存在として、今日も境目高校の青春を謳歌している。

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東西対立! 転校生獲得バトル高校 植原翠/授賞&重版 @sui-uehara

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