戦争の内容を考える戦争

 男子体育では橋向こうが勝利したのだが、もちろん俺を取り合う戦いは一筋縄ではいかない。

「大体なあ、英語の小テスト戦で橋こっちが勝ってるんだよ」

 ブレザーに着替えた宮野が山本に突っかかる。山本は勝ち誇った笑みで返した。

「でも体育で巻き返しのチャンス与えてきたのはそっちですーう」

「因みに、女子のテニスは橋こっちが勝ってるから」

 金崎が口を挟む。俺は美人な彼女にちょっと目を奪われた。

「じゃあ橋向こうは体育男子で一勝、橋こっちは英語と女子体育で二勝してるんだな」

 ならば俺は橋こっちに分類されるべきか、と思ったそばから村瀬が割って入った。

「待って、女子体育でテニスの前に測定した五十メートル走では橋向こうが勝ってるから」

「それじゃ、両方とも二勝ずつか」

 俺は机に頬杖をつき、二人の女子生徒を交互に見た。金崎が腕を組んだ。

「そろそろ白黒付けたいね。次の数学で勝負」

「その次の化学……は、かけるネタがないから、昼休みにトランプで勝負もしよう」

 村瀬が食ってかかった。見ていた他の生徒が加勢する。

「お昼の後の歴史で寝ないで生き残った数で勝負!」

「掃除早く終わらせる勝負!」

 俺は教室の隅っこで、盛り上がり続ける彼らを眺めていた。よくもまあ、そんなに勝負が思いつくものだ。


 聞けば聞くほど面白い。

 この学校は橋向こうと橋こっちの比率や男女の比率だけでなく、運動部と文化部の割合も半分ずつ、進路希望の就職と進学の割合も半分ずつ、資格の合格率までもが半分ずつだという。果てはアウトドア派とインドア派の割合、オバケを信じる派と信じない派の割合、米派とパン派の割合まで半分ずつなのである。

 そして俺は部活は無所属、進路は未定、資格も未受験。アウトドアも好きだが家でゴロゴロするのも捨てがたい、オバケは信じたくないがいてもおかしくないと思うし、麺派である。


 数学の速解き、昼休みの神経衰弱、お昼明けの睡魔我慢大会、早業掃除バトル……いずれも橋向こうが二勝、橋こっちが二勝で白黒つかなかった。

 あらゆる場面で勝負事が行われ、怒涛のように時間が過ぎて、ついに俺の転校初日は放課後を迎えたわけだが。

「もうさ、西原がどっちに属したいかだろ」

 山本が鞄を背負って、ブレザー勢を威嚇した。

「橋向こうに決まってるけどな」

「こっちの方が住み良いわ、バーカ」

 宮野が構える。

 そしてまた言い争いが始まった。

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