バスケ戦争
体育の授業は男子がバスケで女子は外でテニスだった。
男子だけになると随分減ったように感じると思ったら、どうやら男女比も半々らしい。
「はい、チーム分かれて。自由でいいよ」
ピーナッツみたいな体育教官が緩い口調で言うと、ごく自然に橋向こうと橋こっちで分かれた。なぜ分かったかというと、体育着やジャージも制服同様、東西で違うデザインだったからである。違うとはいえ一見見分けが付きにくいので、橋こっちがビブスを着て特徴を出した。色分けされた彼らを俺は呆然と数える。驚くことに、クラス内の男子だけに絞られても、両者の人数はぴったり半分ずつである。
「西原、ほい。これ着て」
まだ名前を覚えていない橋こっちの男が、俺に緑色のビブスを突き出してきた。
「あー! お前勝手に西原を吸収したな」
山本がカッと怒ったが、他の奴が止めた。
「まあまあ、次の試合でこっちに来てもらえばいいだろ」
今のところ俺のポジションは「中立」のようだ。
ピーナッツ教官の笛で試合が始まった。先程の英語の小テストでボロボロだった山本が凄まじいすばしっこさを見せている。
「野山で駆け回って鍛えた脚力と、畑仕事の手伝いで鍛えた体力だ」
逆に宮野は押され気味だ。それでも、他の橋こっちが攻め入っている。
もしかして、と俺はコートの彼らを見渡した。
もしかして、運動能力の高い者と低い者も半分ずつ……?
よく見たら体育で燃える奴とサボる奴の割合も半分くらいずつで、ジャージを羽織る奴と羽織らない奴の割合も半分ずつ。窓から見える女子のテニスも同様に半々。
無駄にバランスのいいチームのせいで、試合は接戦になった。食うか食われるかの競り合いが続き、ボールを奪い合い点を奪い合い、最後の最後まで追い越し追い越されを繰り返す。
そして残り二秒の瞬間で、成績はいいくせにアホな宮野がオウンゴールを決めた。
「一戦目の勝者は橋向こうチーム」
ピーナッツ教官がスコアボードの横で微笑む。教師ですら「橋向こう」「橋こっち」との言葉を使っているのか。
「よっしゃあ! 次はこっちこい、西原」
山本に引っ張られて俺はビブスを脱いだ。
後はご想像のとおりだと思うが……。
俺がそれぞれのチームに行ったり来たりしてもそれぞれの勢いはあまり変わらず、勝ったり負けたりを数回繰り返して、両方の勝率が半分ずつくらいになった。
そして最後の試合で橋向こうが勝利し、僅かに橋向こうの勝率が上回ったのだった。
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