小テスト戦争

 ホームルームが終わり、一限の英語が始まった。

 山本から教えてもらったのだが、英語は毎回必ず、小テストから始まるそうだ。英単語テキストから十問、一点。文法テキストから五問、二点の合計点二十点満点のテストである。俺は授業の直前に出題ページを暗記した。

 テストが終わり、隣の人と用紙を交換して互いに採点する。俺は山本に解答を渡して、代わりに山本のを受け取った。

 うわ、こいつ三点しか取れていない。しかし山本は開き直った。

「ゼロよりマシ」

「そんなんでいいのかよ」

 俺が呆れている傍で、宮野がガタッと席を立ち上がった。

「キタァ! 満点」

「マジかよ」

 山本が顔を青くする。俺も驚いた。先入観だが、校則違反まみれの男がテストで満点というのはちょっとギャップがある。その代わり、金崎はクールなのにピラッと出したテストにはバツしかない。村瀬は頑張って勉強していた成果が出たのか十九点。

「このクラス、成績いい奴と悪い奴の割合も半分ずつなんだよ」

 山本が衝撃の事実を告げた。

「それも、橋向こうと橋こっち両方に半分ずつ。だから成績は常に拮抗してる」

「そんな奇跡が起こりうるのか!?」

「いちばん後ろの奴、列の分を集めてこい」

 カピバラ似の英語教師の一声で、俺と山本は立ち上がった。俺は村瀬の解答を回収し、その前にいるブレザーの女子の解答も受け取り、その前のブレザーの男子のものを受け取る。いちばん前で集めた解答をトントンと揃えていると、山本がそれを横取りした。そして予め持っていた電卓を弾き、何か黒板に勝手にメモをする。後ろから集めてきていた他の生徒も、計算して黒板に小さくメモをした。最後に集め終わった生徒が、その黒板の数字をまた電卓で弾く。

 教室じゅうが固唾を飲んだ。俺も自席に戻ってキョロキョロした。

 電卓を打っていた生徒が、指を止めた。そして教室を見渡す。

「橋向こう百九二点、橋こっち百九七点。橋こっちの勝利!」

「くそ! 惜しかった」

 山本が机を叩いた。見ていた宮野がニーッと笑った。

「残念だったな! 西原は橋こっちのものだ」

「あとちょっとだったのに!」

「かわいそうに。チャンスをやろうか?」

 宮野が余裕げににやける。

「次の体育、試合でそっちが勝ったら今のをチャラにしてやるよ」

「分かった。次で巻き返す!」

 山本が頷いた。

 因みに、俺の小テストは……満点の半分、十点だった。

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