天空の破片
「あの絵は、私の将来を決める最後の希望だった」
冴島さんが僕の脈を締め上げる。
「あの日あの男があの絵を評価しなかったから、私は絵の道を諦めた。それなのに、なに? コウスケブルーって」
ああ、そうか。
冴島さんはあの日の女学生だったのだ。自分の絵が勝手に藍沢の作品になっていたのを知って、再び彼を訪ねてきて来たのだろう。そして今までの藍沢の作品も本人の絵ではなかったと気づいた。
絵に本気だった彼女にとって、藍沢はいかに許せない存在だっただろうか。
「あなたも殺したつもりだったんだけどね。でも記憶がないのなら、これからはあなたの名前で絵を描き続けてほしかった。思い出しさえしなければ、無罪になる材料を探してあげたのに」
僕は、警察官になった彼女が、人を殺した現場を見てしまった。
僕にも分かる。冴島さんは、二度も他人に人生を奪われたくないのだ。このまま僕がバスタオルで首を吊って自殺したことにすれば、罪を僕に着せて逃げ切れる。
ああ、それにしても。
思い出す以前に、僕には初めから名前がなかったんだ。
ぼやけていく視界の先に、壁に貼られた写真が広がっている。蒼い、碧い、青い。最後に貰った、僕の名前と同じ。なんて美しい。
天空の破片 植原翠/授賞&重版 @sui-uehara
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます