時と日記と奥様が解決したこと
冨平新
時と日記と奥様が解決したこと【KAC202211参加作品】
福祉系大学のお笑い系サークル『らふいん』の
サークルメンバーだった
昨夜から、
2人とも現在22歳、結婚の約束をしている。
パワハラが社長にバレたためか、
代わりに着任する人物の辞令が
社内の廊下に貼り出されていたことを灯に報告して、
2人は眠りにつき、朝を迎えていた。
「家の人には俺んちに泊まるって言ってきた?」
「もちろん。光彦のことは、もうみんな話してるから」
「ああ、なんか、急に思い出した」
「何を?」
「兄貴のこと」
◇ ◇ ◇
父親と言い争いになると、
すぐに外に飛び出してしまうのだった。
時々、無断外泊をするようになった。
きっかけはゲームセンターでの出会いだった。
加母田家は裕福ではなかった。
近所の
格闘系のゲームに熱中した。
操作していたキャラクターが敗けた。
バンッ!
ゲーム機を思い切り叩くと、
背の高い20代前半ぐらいの男が、
「100円玉、いくつ欲しい?」
と聞いてきた。
「いらねーよ!知らねえ人から金なんてもらえねえ」
と
もう1人の男が、ゲーム機に100円玉を入れた。
「ほら、やってみな。お前の腕前を見せてくれよ」
次々と勝ち進んだ。
そのゲーム機で、その日の最高得点をマークした。
「なあ、これから俺たちとジュース飲みに行かねえか?
24時間営業のファミレスで、
大声でしゃべったり、無言になったり、
誰かが持ってきた漫画をみんなで読んだりして、
ゆるゆると過ごす時間が
そこには、細かく小言を言う人物は居ない。
ただ、無条件に存在を受け入れてくれる空間だった。
◇ ◇ ◇
ガラッ!
ある朝、18歳の
父親の
頬がこけ、少し
「
何故帰ってこないんだ!」
「夜、どうして帰って来ないの?」
と聞くが、
「兄貴、みんな心配してるよ。夜、どこにいるの?」
「うん?友達とファミレスだよ。何も心配することないよ」
「ファミレスで、ご飯食べてるの?」
「友達が出来たんだ・・・
◇ ◇ ◇
2人部屋を1人で使うことが多くなった
快適ではあったが、やはり寂しかった。
時々帰ってくる
部屋のハンガーに掛けて、外出するときには持っていくのだった。
ある日、高校の体育の授業で柔道をやることになった。
柔道着は
母親と一緒に
すると、日記帳のようなものが出てきた。
「ん?なんだこれ」
パラパラっとめくった。
それを見た母親の
「
「へえ~、兄貴、日記なんて書いてたんだ」
日付を見ると、3年前である。
「3年前…兄貴が中3の時か…
『お母さん、いつもご飯を作ってくれて、ありがとう。
いつも風呂を沸かしてくれて、ありがとう。
いつもやさしいえがお、ありがとう』」
「・・・へえ~、兄貴、こんな事、日記に書いてたんだ・・・」
『お父さん、いつも仕事をしてたいへんだけど、
お父さんのおかげでおれは学校に行かれて、
友達ともたのしくあそべています。ありがとう。
こんなにサイコーのお母さんとお父さんなのに、
どうしてお金がいつも足りないんだろう。
お金が足りないわけは、お金をひとりじめして、
お父さんに少ししかお金をわたさないやつのせいだ。
おれはそいつをこらしめる』
・・・ここまでしか、書いてないのか」
「・・・お父さんにも後で見せるから、お母さん、預かっとく」
◇ ◇ ◇
「・・・兄貴がそんな事を、日記に書いていたんだよ」
「ふうん。お兄さん、口には出さなかったけど、
子供の頃からご両親にものすごく感謝していたのね」
「俺もさ、あの日記読んで、兄貴に一目置くようになったんだよ」
「今じゃ、3人のお子さんを育てているお父さんなのよね」
「兄貴の日記をお父さんが見た時、
お父さんも少しウルッとしてさ、
兄貴が家に帰って来なくても、信頼しよう、
気持ちが落ち着くのを待とう、
ということになって・・・その後、すっかり仲直りしてたよ」
「
その日記のお陰なのね。
お兄さんの今の幸せがあるのは、
お兄さんの奥様とお子さんたちと、
その日記のお陰かも知れないわね」
「そうだね。俺も日記を書くことにしようかな。
もし、
その日記に書いておくから。
その時は俺の日記見つけて、読んでくれよ」
「はーい!
(完)
時と日記と奥様が解決したこと 冨平新 @hudairashin
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