幸福
lager
日記
赤い色の空の下、涸れた風が粉塵を巻き上げている。
水気のない世界で、二つの影が仲良く並んでその砂地を歩いていた。
「お父さん。なにか落ちてる」
「ん?」
その内の小さな影が、砂に埋まった四角く平べったい板を取り出した。
「なにかな」
「ああ。ニンゲンの遺物だね」
「ニンゲン?」
「うん。この星にはね、昔々、ニンゲンと呼ばれる種族が住んでいたんだ」
「昔?」
「うん。ずっと前にね。滅んでしまったんだよ」
「どうして?」
「さあ。どうしてかな。お前が大人になったら、研究してみるといい」
「それはなに?」
「これはニンゲンが使っていた記憶媒体だね。どれ」
大きな影から細いチューブが生え、その板に刺さった。
「どんなデータかな」
「ちょっとお待ち。……うん。ふむ」
「ねえ、お父さん」
「わかった。どうやら日記のようだ」
◇
今日はいい天気だった。
久しぶりに洗濯物が片付いて、畳むのを子供たちが手伝ってくれた。
自分たちから言い出してくれたことがとても嬉しい。
昼には庭に水撒きをした。
虹が二重にかかって綺麗だった。
ハーブが少し元気がなくなっていたけど、持ち直してくれることを期待する。
今日もいい一日だった。
明日は朝から早い。もう寝るとしよう。
◇
「どういうこと?」
「幸せだったってことさ」
「幸せって?」
「さあ。なんだろうね。僕たちにはない機能だ」
「不思議だね、ニンゲンって」
「そうだね。さあ、先へ行こう」
「うん」
赤い風が、彼らの姿を隠していった。
幸福 lager @lager
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