さんぽ

幻典 尋貴

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 猫の後ろ姿を追いかけていたら、見知らぬところに出てしまった。

何となく眠れなくて、適当な服を着てコンビニに来たは良いものの、すぐに帰る気にはなれなくて、店の前を歩いていた白猫について行ってしまったらこうだ。

ここまでは歩いて来たので、ここも家からコンビニの延長線上のはずなのだが、こうも雰囲気が違うと異世界にでも迷い込んでしまった気になる。

 街灯は有ったり無かったりとまばらで、瓦屋根の家がずらっと並んでいる。住宅地なのにこんなに暗くて良いのかとも思うが、そもそもこの地域はお金が無いらしいのでどうしようも無いのかも知れない。

 右手のコンビニ袋に入っているコーヒーも、多分、ぬるくなって酸っぱくなってしまっている。私はコーヒーは大好きだが、冷たくなったコーヒーはどうにも苦手だった。

 白猫が左に曲がる。まるで私を導いているかのように、時々止まって後ろを確認する様がとても可愛らしい。

 スマホの画面を見ると午前1時24分。普段ならば、流石にそろそろ寝なければと焦り始める時間だ。ただ、先程一口飲んだコーヒーのせいか、歩き続けているからか、全く眠気は無かった。

 白猫がこちらを向いて立ち止まり、ニャアと鳴く。

犬であったならば、ここ掘れワンワンよろしく、スコップを持って来てその地面を掘り出しただろう。だが、目の前にいるのは犬では無いし、そもそも近くのスコップの当てもなかった。

 よく目を凝らして見ると、そこには銀色のコインが落ちていた。一円玉か、百円玉かと少しワクワクしながら拾って見ると、ヘンテコなキャラクターの描かれたゲームセンターのメダルだった。

正直投げ捨てたい気持ちでいっぱいだったが、白猫に見つめられているために断念してポケットに入れた。

 白猫が再び歩き始める。

 私もこのままついて行く。


 スマホの画面が午前2時を表示した頃、そこらが知っている景色だということに気が付いた。

 この道は友人宅への最短経路で、家からはコンビニとは真逆の方向だった。

どうやら一周ぐるっと回って来たらしい。

 白猫がまた、立ち止まってこちらを見る。

ここまでの道のりでも何度か同じ事があり、その度に五円玉やら、パチンコ玉やらを拾って来たために、ポケットがずしりと重い。

今度は何かとしゃがんでみれば、ピカピカの五百円玉が落ちていた。

 何となく五百円玉を見ると嬉しくなる。大きさのせいか、その金に近い色のせいか、もしかしたら千円札よりも財布に入っている時の幸福感は強いかもしれない。いや、それは無いか。

中央部分が銀色の五百円玉はまだ見慣れないが、何となく前より価値が上がった気がする。白猫にお礼を言ってポケットに入れた。

 ニャア、と答えた白猫は、また歩き始める。

 やはり私もついて行く。


 そんなことを繰り返し、午前2時35分、何故か自宅前にいた。

 階段部分に腰掛けて、ツナ缶を白猫に与えてみる。美味しそうに食べる様は、本当に可愛らしく、ついつい写真を撮ってしまった。

 缶の中が空になった頃、「もう帰るよ」と言って空き缶を回収して家に入ろうとすると、白猫はニャアと鳴いて帰って行った。

 思い返してみると、とても奇妙な散歩だったなと思う。あの白猫は何が目的だったのだろうかと考えつつ、手を洗う。ついでにポケットの中のコインやらパチンコ玉やらを軽く洗って乾かす。五百円玉だけ財布に入れて、今日は寝る事にした。

沢山歩いたからか、とてもよく眠れた。


 翌日から、白猫が家にたびたび来るようになったのは、また別の話。

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