第2話

その日は、不思議なことがあった。

いつもと同じ放課後、自分の下駄箱を開くと、靴の上に小さな手紙が置いてあった。

友達と授業中に良く回すやつみたいな、ノートの切れ端を四角く折り込んで作ったやつ。

だから、友達からのメッセージかと思って開いたら、やけに整った字でこんなことが書かれていた。


「注文受け付けました。今日の午後7時、F山の裏側にある鳥居を通った先、神社の賽銭箱の裏に品物を置いておきます。代金と引き換えでよろしくお願いします。」


何だこれ、気持ち悪い、と思った。

どう考えてもイタズラか、ヤバいやつでしょこれは。

相手にしちゃダメだ、こんなの。

そう思って、くしゃくしゃに丸めてゴミ箱に投げ捨てた。


正直、今日はかなりイライラしていた。

数学で当てられて、簡単な問題なのに答えられなかったからだ。

わからなかったんじゃない。

ぼーっとしていて話を聞いてなかったから、当てられた時に誤魔化して適当に答えてしまった。

そしたら次に当てられたユウリがすぐ正解を答えていたから、簡単な問題だったんだなってわかった。

アイツが答えられる程度の問題に自分が答えられないなんて、恥ずかしい。

そう思ったら、時間差で急にものすごく嫌な気持ちになって、一気にダルくなった。

今もそう。

ダルいから部活をサボって帰る。

で、このアホな手紙。

何なんだ今日は。


帰りのバスの中で、気を紛らわせたくて大好きな配信者の動画を観た。

この子は、自分と同じ高校生なのにどうしてこんなにキラキラしてるんだろう。

まぁテレビに出てないだけで、一般人とは違う世界に生きてる人だし、芸能人みたいなものなんだけど。

この子と自分は何が違う?

見た目?生い立ち?人生観?

単純に、度胸があるかないかだけの違いなのかもしれない。


本当は私だってそっち側に行きたい気持ちがある。

でも、人目を気にしたり、自分を卑下したりしてしまって、全然自由じゃない。

ユウリのことだって見下してるけど、実はそんな自分の方がユウリよりも友達も少なくて、長い目で見たら将来性もないかもしれない。

折角楽しい動画を観てるのに、自然とため息が出てしまった。

どうしたら良いんだろう。

何かキッカケがあれば良いのに。


しばらく考えているうちに、ふと、思い立った。


あの手紙、動画にしたら面白いんじゃない?

ヤバいやつだったら、通報できるし、その方が再生回数が稼げるんじゃない?

もし、変な奴が出てきたら、すぐ警察に通報すればいいし。

一か八かだけど、高校生同士のやり取りだし、そこまでヤバいやつはうちの高校にはいないと思う。

単なるイタズラだとしても、ネタとしてはまあまあじゃないかな。


そんなことを考えていたら楽しくなってきて、ちょっと気分が良くなってきた。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

眠れない夜に バネロ @banero

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ