【超短編】アンチ ループ(1615文字)

平のあじ

アンチ ループ

 私は焦っていた。最近、反乱の意思が大きくなっている気がするのだ。

 それだけではない、何度潰そうがその意思は蘇ってくるのだ。

 まあそれは百歩譲って良しとしよう、そういう国もあるのだろう。しかし、筆頭がいつも同じ顔。これは一体どういうことだろう。希望溢れる瞳に、真っ赤な髪。同じ人物? いやいや何度も○刑したはずだ。

 反芻し尽くした疑問を巡らせては、また自室を歩き回っていた。薄暗い部屋の中、隙間から覗く小さな村。それを睨んでは指を折る。

 この日、この時間に、あの村は火種を持つ。そして、それは大火事へと発展して……。

 数秒考え、私は頭を持ち上げた。

 そうだ、全てはあの火種から始まったのだ! あの男は火事の翌日、この街に姿を現すのだ……! 炎の中から、不死鳥のように、何度も、それは何かを繰り返すように……! 

 いや、あの男だけではない。

「総帥、朝食をお持ちしました」

「……うむ」

 やはりそうだ。この朝食、丁度二週間前に食べたメニューそのものだ。ハムの無いサンドイッチ、芯しかないサラダ、すっぱすぎるオレンジジュースに腐りかけのバナナ。もしこれが定期的に出されていると言うのなら、私は相当嫌われているのだろう。いやそんなことはない、断じてない。

 つまりだ、これは世界がループしている証拠だ。にわかには信じがたいが、きっとそうだ。数十回のループの末に私は確信したのだ。

「だが……」

 寝ても取れぬ倦怠感が腰を下ろさせる。今回もまた、壮絶な頭脳戦が繰り広げられるのかと思うと目眩がした。

 奴の刃は徐々に私の首に迫ってきている。この前なんて、悍ましい数の爆弾を身にまとって飛び込んできたのだぞ。

 自爆寸前の、あの断末魔が蘇る——


「なんでお前も、ループしてんだよっ!!」


 ——してないんだよな、ループ……。

 治らない古傷を摩り、また溜息をついてしまう。

 ……だが、あの断末魔には焦りが見えた。きっと奴もループで消耗しているのだろう。

 いいだろう、ループで磨かれたのは貴様だけではないこと、その差を見せてやろう——


 ——二週間後。

 城前には反乱の意思がずらーーーーーーー、なんかドラゴンもいる。

「まさかここまで……ループと言うのは恐ろしい力だ」

「総帥! 物凄い勢いで、敵が侵攻してきています!」

「落ち着け、私だってこの二週間、遊んでいた訳じゃない」

「に、二週間……?」

「いや、何週だろうな……」

 私が手を叩くと三人の兵士が。

「お呼びでしょうか、総帥」

「諸君には、反乱軍のトップを潰してもらう、手段は各々に任せるが、迅速にな」

 三人は「御意」とだけ言い、部屋から出ていく。

 執事は眼鏡を直し。

「総帥、あれってまさか……」

「ああ、奴を倒すにはもうこれしかない。さて、私も行くとするか……」


 ——群れの先頭は相変わらず赤い。何週もの成果がその腕っぷしには見て取れた。

 しかし、その侵攻は一人の兵士によって止められる。響く金属音。赤い少年は目を剥いた。

「お、お前は……!」

「拙者は手練れの剣士。ここを通りたければまずは私を斬ることだ」

「くっ……!」


 ——数二週間後。

「ぐはっ……」

「よ、ようやく……倒せた……」

「はっは、まさか。あやつが敗れるとは……」

「だ、誰だお前は!」

「ふっ名乗る程の者じゃない……ただ、剣豪とは呼ばれておる」

「っ……!」


 ——数十二週間後。

「うっ……」

「まさか剣豪が敗れるとはな」

「だr」

「大剣豪」

「……!」


 ——数百二週間後。

「こ、これで全員か……い、いよいよだ。いよいよ奴を……!」

 赤い少年は最後の扉を蹴りやぶった。

「俺は強くなって帰ってきたぞ! どこだ、出て来い!」

 しかし、総帥の姿は見当たらない。その代わりに机上には一枚の紙が置いてあった。


『私の勝ちだ』


 赤い少年は頭を抱え、膝から崩れ落ちた。


 ——数十年に渡る戦いは終わり、ループすることはなくなった。独裁者は消え、皆の願いである平和も訪れた。

 ただ一つだけ、もう叶わぬ願いも生まれた。

 それは、かつて村に火を放った者への復讐である。


 おわり。

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