【KAC202210】助けたのは偶然でした。
かなめ
助けたのは偶然でした。
身体は疲れてる。
起きるためだけに少しだけ開けてあるカーテンから見える外はしっかりと暗闇に染めていた。
薄らぼんやり確認できる時計の針が知らせている時間を確認しなくても、今現在は、真夜中といって差し支えないと思う。
「ねれない」
いつもなら熟睡している時間。
ただ、今日は……時間的には昨日だけど、ほんっとうにそれこそ朝から晩までずっとずっと忙しい日で走り回っていた。
ご飯すら立ったまま数秒で摂取出来る液体栄養と棒スティックの栄養食品を口にしたくらい……アレを食事だと普段の自分であれば認めたくはないけれど、もしもの備えとして設置しておいた非常食ストックはしっかり減っていたから食べていたんだと思う。
自信はないけど。
「……ねれない」
「めずらしい、家主様がこんな時間に起きてる」
そう言いながら頭に三本の飾りがついたフクロウっぽい何かが、部屋の中に入ってきた。
「え?」
「御機嫌よう、家主様。先日はワタクシめの羽ペンを直していただきありがとうございました。いや~、緊急で入ったヘルプ仕事に行かなきゃだったので、あの時は本当に助かりました!」
……入って、きた?
ちょっと待って欲しい。
ここの防犯システムだけをあんまり信用しすぎてもなって、一応自家製の魔術具で強化もしてあるんですよ。
とある有名な錬金術師様の弟子にスライディング土下座の一芸で採用してもらったので。
だから、この部屋に入れるのは私が許可を出したものだけだ。
これ。お師匠様にバレたら、説教何時間コース?
「ああ、お礼とはいえ、レディのお部屋へ真夜中に訪問は流石に拙かったですかね」
こっちはダラダラと冷や汗が出てきているというのに、無駄に紳士的にそんな心配をほざいてくれてるフクロウっぽいトリさんや。
「許可出してないんだけど……」
「あ、そんなの無意味です。次元が違うので」
「じげんがちがう」
「はい!」
そのドヤ顔に全力で拳を叩きつけてやったら、スッキリして寝れるかもしれないなとか一瞬思った。
「混乱していらっしゃるところ申し訳ありませんが、話を戻しますね。本日は、あのときのお礼に参りました」
「お礼とかいいので、帰ってください」
「バッサリですねぇ」
だって疲れてますから。疲れすぎて寝れなくなってるんですけど。
「まあ、ご安心ください。羽ペン修理の御礼をお届けにきただけですので、すぐにお暇いたしますよ」
そう言って頭の上に乗っかってる三本の隙間に両羽を器用に差し込んでマグカップを取り出した。
質量保存の法則……。
世の中にはどうなっているのか知らないほうが、何の疑問もなく有り難く受け取れる現実があるのかもしれないって遠い目をしたくなった。
お師匠様ー。助けてくださーい。
これ、無理でーす。私の手にはおえませーん。
「さあどうぞ。お収めください」
実にスマートかつ紳士的に差し出されたマグカップ。
みるからに温かそうな湯気を立ち上らせている白い液体が、たっぷりと満たされていた。
「どうやら眠れないご様子でしたので、こちらを。温めた牛の乳です」
甘いものが平気でしたら、蜂蜜などもご用意できますが。
待って待って。
両羽使ってマグカップ取り出したあと、どうやって温かい牛の乳を注いだの。しかもなんか追加で蜂蜜とかあるとか言ってる。
疲労によって確かに甘いものには飢えていた。
「どうぞお好きなだけ」
添えられる蜂蜜の瓶。
お師匠様がめっちゃ好きな銘柄じゃないこれ。
たしかものすごく手に入りにくくてお高いらしいのよね。
それを? 好きなだけ?
そんな恐れ多いこと出来ないわ。
「は、蜂蜜はえんりょ……します。あの、お気持ちだけ、ありがとうございます」
「そうですか。とても残念です」
いそいそと蜂蜜の瓶だけ大事そうに仕舞っているけど、ちっとも残念そうに聞こえない。
おそらくこのトリも、お師匠様みたいに甘味に一言ある感じなんだろうな。
起き上がって受け取ったマグカップの中身を冷ましながらゆっくりと時間をかけて飲んでいく。
このトリのような怪異と喚ばれる存在からの、善意からくる好意を受け取る場合は、開き直りと諦めが肝心だとお師匠様は言っていた。
「あ、飲み終わりましたか。洗わなくても大丈夫ですので、こちらにお渡しください」
「あ、はい」
飲み干しきったマグカップをウトウトしながら手遊びしていたら、催促された。
「あの……ごちそうさまでした」
「いいえ。こちらこそ先日はお世話になりました。今宵、貴女に良い夢が訪れますように」
「おやすみなさい」
「おやすみなさいませ」
ああ、なんかとてもいい夢が見れそうな気がしてきた。
終わり
【KAC202210】助けたのは偶然でした。 かなめ @eleanor
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます