言葉=行動の難しさ

荒川馳夫

真の平和とはなにか

「争いはよくありません!みなさん、平和を目指して手を取り合いませんか」


町中で自らの主張を訴えている男がいた。

場所は大通りで、多くの通行人が彼の主張を耳にした。


彼の声は聞き心地が良かった。そのため、主張に賛同する者が増えていった。

内心、男はほくそ笑んだ。


(よしよし、上手くいってるぞ。やはり、オレの考えは正しいのだ)


顔に嬉しさがにじみ出てきそうになる。そこにツッコミを入れてくる者が。


「すみません、近所に住む者ですが。一言だけ」


どうやら、男のご近所さんのようだ。男には面識がないように感じたのだが。


「おお、あなたも賛同してくれるんですか」


「ワタシは隣の家にすんでいるのですが、あなたの家からは悲鳴のような声が毎日のように響いてくるのです。苦情も届いています。主張とずいぶん違うことをやっているように思えてなりません。あなたは家で何をされているのです?」


チクリとした一撃で男は激怒し、隣人に暴力をふるってしまった。

警察が駆け付けたのち、男は逮捕されてしまうのだった。



 それを少し遠くで見ていた親子連れがいた。娘が不思議そうな顔をして、母にこう言った。


「ねえ、平和って仲良くすることだよね。どうして、あのおじさんはお隣さんを攻撃するの?おかしいじゃん」


母は真剣な眼差しで、娘に伝えた。


「お母さんも同じ気持ちよ。近くにいる人を大切にする。これをみんなでやれば、争いなんてなくなるはずなのにね」


「そうだよね……。でも、安心して。わたしはママやパパ、先生やお友達のことが大好きだよ!」


この親子の間に、争いなどというものは起きそうになかった。




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言葉=行動の難しさ 荒川馳夫 @arakawa_haseo111

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