真夜中のパルクール
アーカーシャチャンネル
それが真実なのか?
とある噂をSNS上で耳にしたバーチャル配信者は、その時間ぴったりに該当サイトへのアクセスを試みていた。
自宅の一室でノートパソコンでネットサーフィンをしていたところ、まさかの情報を得たのである。
「まさか、こんな夜遅くに稼働するサーバーがあるなんて」
ある動画配信者がアップしていた動画では「午後11時から翌日午前4時までにしかアクセスできないゲームがある」と言及していた。
そのゲームのジャンルは、まさかのアクションという事で彼は参加しようか迷っていたのである。
「一部の実況者などが配信している以上、そこまで問題視するようなゲームではないようだが…」
彼自身はメインをゲーム配信としているわけではない。ネタに若干困り始めていたので、ゲーム配信を行うためにもゲームがうまくなりたい、とは思っていたが。
その状況で、今回の噂は別の意味でもグッドニュースかもしれない一方で、一歩間違えると炎上案件になりかねない。
【午後11時から翌日午前4時までしか稼働していないサーバーがあるらしい】
【深夜限定? リアルゲーセンだと閉店時間に近いじゃないか。一部の店舗だと24時間営業もあると思うが】
【ゲームのロケテストとか個人サーバーのゲーム、もしくは有料会員限定とも考えたが、そうではないらしい。無料でプレイできる】
【どういうジャンルなんだ?】
【見た感じはパルクールだな。スタート地点からゴール地点までの障害物競走という感じか】
【しかし、中間地点でアイテムを入手しないといけないらしい。難易度はそこまで高いものではないと思う】
【唯一の難点があるとすれば、アバターが女性限定になっている箇所か。いわゆるギャルゲーという評価をしているサイトもあったな】
【使用するアバターのアーマーには企業ロゴが印刷されているとか。もしかすると、サーバーの運営支援しているスポンサーかもしれない】
情報を整理すると、深夜限定のパルクールフィールドを運営しているサーバーがあり、そこではアバターが女性になると。
何故に深夜限定なのかは諸説あって、ここでは有力な情報は得られなかった。一体、彼らは何を沈黙しているのだろうか?
該当サイトを見つけ、午後11時になるのを待ち、彼は何とかサイト内に入る事が出来た。サイトというよりは、VR空間やメタバースという気配もしないでもない。
その流れの中、バーチャル配信者は問題のゲームがあるフィールドへと向かう。アバターは元々が女性アバターで活動していたので、自前の物でアクセスをしていた。
「アバターは問題なしと確認できました。アーマーの選択はこちらです」
受付の女性と思わしき人物は特に問題がないと確認すると、別の場所へと案内する。そこは、まさかのパワードスーツの格納庫と言わんばかりの光景だった。
「ジャンルを間違えているのか?」
デザインを踏まえると、明らかにFPSなどで見かけるようなものもあり、本当にパルクールなのかも疑わしい。
一方で、肩アーマーやウイングパーツなどでスポンサーのロゴが目立つのも特徴である。サーバーの運営資金を提供しているという話はあるのだが、それ以外にもあるかもしれない。
(本当に実況者が注目するようなゲームなのか? 人の姿なんて、ほとんどない)
少し見回っても、ここでアーマーを見ているアバターはほとんど見なかった。まるで、貸し切りを思わせるくらいには人を見かけない。
さすがに時間限定のゲームで、人が混雑している状態だったらサーバーの方がキャパシティオーバーでシャットダウンする危険性もあるだろう。
自分の選んだのは、重装甲というよりは軽装甲型のアーマーで、全長も自身の身長と差異がないようなものだった。
アーマーの選択は自由であり、特に性能の高いものはコストが重かったり、レンタル料金が高いリスクがあるわけでもない。
ふと疑問に持ったのはアーマーを選んでいる際に見た、あるルールにあった。そのルールによれば「アーマーの企業スポンサーロゴを特定エリアでアピールすればスコアが上がる」というものだったのである。
(スコアはゲームのスコアなのか? それとも別の何かとか)
別の何かに思い当たるものはなく、まもなくレース開始という事もあって会場へと急ぐ。
その道中で何か有名プレイヤーと思わしき人物を見かけたような気がしたが、気のせいとすることにした。
自分の番となり、該当するフィールドへ向かった結果、その光景は明らかに見覚えのある場所だったのである。
「この場所は、まさか?」
見慣れたビル、見慣れた歩行者天国、見慣れた駅……。その場所の正体は秋葉原だった。
厳密には、秋葉原をベースに作り出した『真夜中のパルクール』のコースの一つだったといえるだろう。
「真夜中のパルクールとは、よく言ったものだ」
コースには、他にも池袋や新宿と言ったエリアも存在する。仮想空間で行うので、警察の許可などは一切不要。
SNS上でも真夜中にスケボーを行うプレイヤーなどが社会問題となりつつあるため、ある意味でもこの仮想空間でパルクールを行えば、一般市民に迷惑は掛からないだろう。
「逆に言えば、これを真夜中にリアルの秋葉原で行えば炎上は免れないし、犯罪にもなりかねない」
周囲を見回し、その完成度に驚くのだが、それ以上に他のプレイヤーで彼と似たような反応をするものは少ない。
最初から他のプレイヤーはゲームとして参加しており、彼のような特別な理由で参加したわけではなかった。
「だからこそ、このゲームには明らかに裏がある」
彼は周囲のリアル秋葉原にはないようなカメラの存在を警戒しつつ、コースを疾走していく。
「まさか、こういう構造になっているとは思うまい」
都内某所のサーバールーム、そこでモニターに表示されたプレイヤーを見守っていたのは、サーバー管理者の男性だった。
彼に膨大なサーバーを任せたのは、モニターにも映っているランナーのアーマーにプリントされた企業の一つ。いわゆる宣伝目的でもあるのだが。
それに加えて、映し出されている光景はリアルの秋葉原。付け加えるのであれば、バーチャルアバターがリアルの秋葉原に投影されているのだ。
一体、これは何を意味するのか? 企業側は「新たなコンテンツ流通に必要な投資」と言われて協力をしているのだが、これには驚きの声がある。
『バーチャルアバターを現実に投影する技術自体は既にある。何をいまさら?』
『深夜でなければできないイベント、こういう事か』
『これと君の言っていた目的、つながりはあるのかね?』
様々な企業が今回のゲームに投資を行い、大いなる実験に立ち会っていた。彼はコンテンツ流通を変えることを第一に、この案を立ち上げたのだという。
それに加えて、彼女たちの走る姿を見て応援という意味で該当動画にスパチャを行う人物もいる。単純に真夜中のパルクールはバーチャル配信者のイベントではないのだ。
「バーチャル配信者でも炎上に関しては様々あるでしょう。真夜中のパルクールは隠されたパネルの正体、そういう事ですよ」
真夜中のパルクールはスタート地点からゴールに向かって走るだけではない。隠されていた真相は別にあった。
各エリアに落ちているパネル、その正体はまとめサイトなどにアップされたまとめ記事、つまりまとめサイトの管理人が作り出した捏造の記事でもある。
中には真実もあるかもしれないが、真夜中のパルクールではそうした記事はスルーされる傾向が多い。その理由は一目瞭然だった。
「真夜中のパルクール、その正体はSNS炎上を起こす元凶を消滅させること。その為に、こうしたゲームのシステムに偽装し……コンテンツ流通を正常化するために、ロケテストをすることにした」
彼の視線はバーチャル動画投稿者に向けられているが、本当に彼はまとめサイトを根絶させる意図で真夜中のパルクールを生み出したのか?
企業側は他にも彼に別の理由をたずねようとしたが、それに答えることはなかった。その理由は、彼が今回のバーチャルアバターのモデルデザインを担当していたのもある。
つまり、彼は自分の生み出したアバターをアピールするために真夜中のパルクールというマッチポンプをしかけたのでは……と。
それから数日後、真夜中のパルクールをプレイしたプレイヤーが思わぬ形でネット上の話題となった。
その理由は定かではないが、一連のまとめサイトが一斉閉鎖している一件に関係しているのでは、といううわさがある。
これに関しては実際にプレイしていたプレイヤーにも何が起きているのかはわからない。これさえも、運営者にとっては話題となる事が逆に都合がいいといえるだろう。
全ては始まったばかりなのだから。
真夜中のパルクール アーカーシャチャンネル @akari-novel
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