クエスト:流れ星の卵を捕まえろ 〜ようこそカザミド冒険団!〜

雨蕗空何(あまぶき・くうか)

ある日のクエストの光景

『月明かりのない新月の夜、南の荒野に流れ星の卵が降ってくる。

 卵の殻は装飾品などに加工できるので、捕まえて持ってきてほしい』


 今回カザミド冒険団が受けた依頼は、そんな内容。




 夜。荒野。新月の夜。

 星々だけに照らされて黒く沈む大地を、遠くモグラウルフの遠吠えが響いた。

 大地の一角、テントがひとつと、焚き火がパチパチとはぜる音。


「たまにゃあ、こう静かに星を見上げるってのも、悪くはないと思うよ? オイラはさあ。

 でもそういうのって、隣にいるのはカワイイ女の子って、相場は決まっててさあ」


 人腕フクロウのクロフは独りごちて、隣をちらりと見る。


「いやあ夜は長いよ! 推しを語るにはとってもいい環境だねぇ!

 こんな夜には紺碧騎士ブラウの英雄譚が実に映える! そう思わないかいクロフ君!

 星々が嫉妬してこちらに降り注いでくるくらい、今からブラウの魅力をたっぷりと語るよ!」


「やかましーんだよジュード!!

 てめーの推し語りはもう百遍だって聞いたわ!!」


「なら今回は百一回目だ!!

 語れば語るほどブラウの勇姿は五臓六腑に染み渡って健康にいい!!」


「やかましゃー!!」


 夜の静寂を台無しにするように、大剣をかついだ陰気な男、模倣騎士ジュードは陽気に語る。

 クロフはうんざりと右手をひたいに置いた。

 耳をふさぎたいが、右腕だけが人間で左は翼なのでそれも叶わない。

 仕方ないので、もう一人の同行者に文句を言った。


「なぁおいウェザリオ、なんでこいつ連れてきた?

 真夜中の風情も何もありゃしねー」


 女性のような顔立ちの青年、風護神使ウェザリオは、真顔のままこてりと首をかしげた。


「冒険団の中で、ジュードが一番夜に強いからね。

 魔物もいるから、戦闘ができる人が欲しかったし」


「だからってなぁ」


「コ・コヤを連れてきた方がよかったかな?

 この月明かりもない暗がりで、何をしでかすかぼくは保証ができないけど」


「まあ、うん、そうね、その二択ならジュードだね」


「さて、そう言っているうちに」


 ウェザリオが空を指さし、クロフとジュードはそれを追って見上げた。

 ひとつ、流れ星。が、地面に向かって落ちた。

 こつん、こつん。地面をはずむ。握りこぶし大の赤色の球体。

 中が透けていて、星型の何かが見える。


「近くに落ちた。運がいいね。捕まえよう」


「なぁウェザリオ、捕まえるって表現するってことは、あれって」


 赤色の流れ星の卵は、ゆらゆら揺れて。

 それから、ウェザリオたちから離れるように、転がっていった。


「うん、魔物なんだ、あれ。

 ホシクズドラゴンっていって、孵化して空に帰って立派なドラゴンになる」


「あれドラゴンなんだ!?」


 ころころ、転がって逃げる。

 ジュードをうながそうとウェザリオが目を向けると、ジュードの陰気な目はきらきらと輝いていた。


「空から来て、空へと帰る! 素晴らしい!

 つまり彼にブラウのことを布教すれば、ブラウの名声が空までとどろくことになる!

 こうしちゃいられない、なんとしても捕まえて、語り明かさないとねぇ!」


「おいウェザリオこれ人選ミスじゃねーの!?」


「まあ、捕まえてくれるんなら、なんでもいいや」


 猛ダッシュで追いかけるジュードの後ろを、ウェザリオは追った。

 クロフを肩に乗せて。


「クロフ、周囲の警戒をお願い。

 他の魔物が寄ってくるかもしれないからね」


「しゃーねーな! フクロウの視力と聴力、活用してやんよ!」


 流れ星の卵は火の粉を散らし、威嚇してくる。

 ジュードは大剣を振って払いながら、笑顔で迫った。


「なぁなぁ逃げないでくれよ! 怖くないから一緒に語り明かそうじゃないか!

 世界で一番かっこよくて偉大な騎士の話だよぉ! 僕が敬愛する最強最高の騎士だよぉ!

 ほらほら近くによってごらん! さぁ! さぁさぁさぁさぁ!」


 卵は逃げる。ジュードは大剣ぶんぶんで追いかける。

 その後ろについて、ウェザリオは杖を振る。


「風よ。気まぐれな加護を与えたまえ。

 致命なる失敗をしりぞけ、幸運なる成功を引き寄せよ」


 ジュードは追う。何度も飛びつく。

 そのたび卵は転がり、はずみ、器用によける。

 そんなやり取りを繰り返して。


「おおっとぉ!?」


 転倒。派手に倒れ込み、ジュードの手から大剣がすっぽ抜けた。

 それが卵を飛び越えて先の地面を砕き、砂利と砂ぼこりを舞い上げた。

 視界と足場の急な変化に、卵は動きをはばまれ、その場で揺れた。

 そこにウェザリオが追いついて、耐火袋をかぶせた。


「よし、確保。

 あとは依頼主に届けて完了だね」


「そいつ、中身はどうなるんだ?」


「孵化したら、殻だけ回収して空に返されるよ。

 殻は外から叩いても割れないし、成長してまた卵を産んでもらいたいからね」


 そこにジュードががばりと起き上がった。


「じゃあ、孵化して空に帰るまで、たっぷりと話を聞かせる時間があるねぇ!

 よぉし流れ星の卵くん! 心して聞くがいいよ! 世界で一番かっこいい騎士の話だよぉ!」


「おいウェザリオこいつ止めなくていいのか?」


「楽しそうだし、いいんじゃないかな」


「てめーさてはめんどくさくなってるだろ!?」


「いやだなぁ、そういうわけじゃないよ」


 星明かりの下で、ウェザリオはにこりと微笑んだ。


「団員みんなが活き活きしているのが、この冒険団のありようなんだから。

 ぼくはそれを、守りたいだけ」


 夜はふけ、三名はずっと喋りながら、街へと帰る。

 依頼は無事に完了し、今日もまた、日銭は酒とパンと笑顔に変わる。


 なお後のうわさで、今回の卵で作った装飾品を枕元に置いておくと、夜な夜な謎の騎士が活躍する夢を見させられるとか、なんとか。

 それはまた、別の話。

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