再会と新たな始まりのエピローグ

 帰還した星矢はその場にぶっ倒れていた。


「キツイ」


「流石にダメージ受けていたんだ。平然としていたように見えていたけど」


「瘦せ我慢に決まっている」


 変身を解いた彼は想像以上に消耗していた。


 ファイナルアタックも、ギリギリ変身解除にならない程度まで二人の武神具で軽減できただけで、かなりのダメージを受けていたのだ。


 それに加え、本当に大切な存在達と戦うというストレスもある。


「だが、その甲斐はあった。二人があそこまで強くなるとは・・・嬉しい誤算だ」


 痛む体を起き上がらせ、彼は魔王軍のデビューとなった戦いは大成功だと胸を張った。


「これでつまらん組織にも牽制ができたというもの」


 星矢がこうやって世界征服に乗り出したのは幾つも理由がある、


 一つは陽菜、月菜、風花のためのあえて敵対的立場で支援するため。


 もう一つはこの世界にうごめく闇だ。


「・・・悪いな」


 その闇は雷斗が追っている組織でもある。


「いいってことよ。あいつらは即滅せねばならぬからな」


 大魔王の出現はその組織にとっても脅威に映っただろう。それによる牽制と動きを見ることが一つ。


「世界を手に入れるために、必要なことは多い」


 最後の理由は世界征服という大きな目的を示すことで隠すことにしたのだ。


「あくまでも最終手段なのだからな」


 本当の目的・・・彼の大切な人たちを護るということを。


「魔王軍はここから再び暗躍の時を向かえる。クライム・・・存分に働いてもらうぞ?」


「よかろう。お前の愛・・・世界を超えるのか見せてもらうぞ」


 星矢はクライムの問いに笑みで答える。


「やってやるさ」


 魔王軍はここから始まる。


 のちに本当に世界を制してしまう魔王軍は。




 一方、風花は家に帰り、ベッドに倒れ込んでいた。


「どうすれば・・・いいの・・・」


 彼女の問いはむなしく空へと消えていく。


 彼女は知ってしまったのだ。


「どうして・・・月菜が・・・陽菜が・・・守護者なの?どうして苦しんでいることを何も言ってくれなかったの?」


 それは守護者の正体。


 ガーディフェニックスと仇と思っていたガーディフェンリルの正体。


 そして、その裏にあった真実。


 すべてが本当だと風が・・・声が教えてくれた。


 彼女の耳によって・・・


「私・・・どうすればいいの?」


 彼女は月菜と陽菜の苦しみを知ってしまい。自問自答を繰り返す。


 だが・・・答えは出なかった。




 朝が来る。


「・・・なんとか間に合った」


 星矢達はホームステイも受け入れることで大変忙しい日々を過ごしていた。


 突如の月菜の帰宅、


 それに伴う色々なことで忙しさは増したが二人が来る日に間に合わせることができたのだ。


「どんな人なんだろ?」


 逆にその忙しさの中で月菜は新たにできていた弟二人との交流も進んでいた。


 活発な陽菜とは違う物静かな月菜にも弟達もすぐになじんだのは陽菜と色々と対照的で、それでいて似ているというのが大きい。


 表面は違っていても根っこが全く一緒なのだ。


 月菜もまた二人のことをよくわかっていた。


 なぜか星矢を見て「まさしく星矢の弟ね」というのだ。


 その言葉に男子三人以外は首をかしげ、他の皆は苦笑する始末。


 そんな日々を過ごし、星矢と陽菜、月菜の三人は駅前のロータリーにある時計の側にいた。


 駅は街の中心にあり、側には多くの商業施設があり、都市の中心といっていい場所。


  多くの人たちが行きかう中でロータリーの時計は待ち合わせ場所としてよく使われている。


 そこで三人は待っていたのだ。


 ホームステイの留学生を迎えるため。


 ちなみに、わかっているのは名前だけで、顔はわからない。奏はあえて見せないでおいて、サプライズにしたそうだ。


 奏曰く、相当な美少女らしい。


 勇矢もすぐに合流予定だ。


 暖かい春の風が青い空から吹き抜けていく。


 三人はともに居る喜びを無言でかみしめていた。


 陽菜と月菜は視線を合わせ、微笑みあっている。


 言葉もかわさずに分かり合っている様子に肩を竦めるほかない。


 そんな三人の前に一人の少女が現れる。


 赤い髪をした少女で、大きな白い鍔のある帽子をかぶっており、顔がよく見えない。


 だが、大きなスーツケースをもって、待ち合わせた時刻に待ち合わせた場所にやってきたのだ。


 間違いないだろう。


「えっと・・・あなたがリーヴィアさん?」


 そうですと答える彼女はホームステイにやってきた少女の一人のようだ。


「はい・・・その・・・ごめんなさい」


 彼女は突然謝ってきたのだ。それはもう一人がいないことに関係があるようだった。


「一人が駅に着いたとたん迷子になって・・・」


 彼女曰く、もう一人の子は迷子の達人らしい。


 その言葉に脱力する皆。


「ごめんなさい。すごくポワポワした子で、あっ。顔がよく見えない・・・双子の女の子はわかるけど、もう一人の顔が・・・」


 強い風に帽子が飛ばされないように抑えながら陽菜、月菜の顔を確認するリーヴィア。だが、帽子が邪魔で星矢の顔が確認できないようだ。


 その声を聴いた星矢は首をかしげる。


 なぜか聞き覚えのある声だったからだ。


 その風のいたずらの中、陽菜が何かに気づく。


「・・・あっ、勇矢がいた・・・おーい」


 陽菜が勇矢を見つけ、声をかけていたのだ。待ち合わせの広場の側にあるバス停に彼はいた。


 近くなので陽菜の声は届いているはずだ。


 だが、彼からの返事がない。


「どうしたの・・・ってあの子?」


 月菜が勇矢の視線の先に白い髪をした少女がいることに気づく。


 二人とも見つめ合ったまま固まっていたのだ。


 その姿を見たリーヴィアが声をあげる。


「まったく、探したわよ、シラヒメ」


 その名前を聞きながら星矢も勇矢と対峙している少女を見て固まっていた。


「なんで・・・」


 勇矢は目から涙をこぼしながら彼女を見ている。


「なんで・・・涙が?」


 一方、白髪の少女もまた涙を流しながら戸惑っていた。


「なんで・・・なんで止まってくれないの?」


 勇矢と対峙していた少女の名前はシラヒメ。


 一年前、師に分かれた仲間で勇矢の・・・恋人。


「な・・・ぜ」


「って、シラヒメどうしたの!?」


 驚くリーヴィアがシラヒメに駆け寄ろうとして、帽子が風に飛ばされてしまった。


 そこから長い赤い髪を顔があらわになる。


 その姿は・・・


「・・・リヴァ・・・」


 星矢が彼女の名前を呟く。


 異世界にて彼に想いを告げた姫騎士の彼女だったのだ。


「・・・・・・」


 彼女もまた初めて星矢の顔をまともに見て、固まっていた。


「・・・・・あ・・・・・」


 見開いた瞳から一筋の涙がこぼれ落ちる。


「あれ?なんであなたの顔を見て、涙がでたのかな?」


 なかなか止まらない涙と溢れてくる気持ちに戸惑っているようだ。


 何が起きているのかわからず陽菜と月菜は涙を流している三人と驚き固まっている星矢へと何度も視線を動かしている。


 一方の星矢だけは事態をすぐに把握したようだ。


――――そうか・・・転生術式。


 それは彼が彼女達に渡した術。


 彼自身も二度使っていると思われる転生の力だ。


 それは彼女達の死をきっかけに発動。


 時と世界を超え、紡がれた因果の糸をたどり、彼らは再び巡り合えたのだ。


 彼自身がかけた保険。それが芽吹いたのだ。


 そう理解した瞬間、陽菜と月菜の声がようやく聞こえた星矢は自分の頬に手を当てる。


「あっ・・・」


 濡れていた。


 そこで彼自身もようやく気付いたのだ。


 自分も涙を流していたことに。




 これは転生術式から始まる愛と世界征服の話。




死という別れすらも、再会へとつながる物語である。


 




 その頃、とある計画が始動しようとしていた。


「いよいよ。この時が来たわね」


 海花は会長席にて、報告書を読みながらその時が来たことを悟る。


「そうね・・・いよいよ」


 その声に応えるのは奏である。


 海花の書類には「Project GEAR」と書かれている。


「このプロジェクトは世界を変える。いい方にも悪い方にも。でも私たちは前に進まないといけない・・・奏、本当にいいの?」


「ええ、私が最適のはずよ?ギアスーツの装着者、第一号には」


「・・・本当なら私がやるべきなのにね」


 海花は苦笑しつつ立ち上がる。


「やるからには本格的にやるわよ。官民共同プロジェクト・・・ギアーズの始動よ」


 画面越しに八つの光を放ちながら回る歯車型のコアがあった。




 ここから新たな守護者たちの物語が始まる。

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転生から始まる愛と世界征服 @THIS

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