相撲部の俺が一コ上のチビ先輩(♂)にキュンキュンするのは全部真夜中のせいだ
鱗青
相撲部の俺が一コ上のチビ先輩(♂)にキュンキュンするのは全部真夜中のせいだ
土俵の横で、手をつく部分に年輪が浮き出る
「精が出るな
「勝って
俺の返事に主将は人好きのする笑顔で「ところでアレなんだが」と
「あの壺、どう思う?」
「昨日までは無かったとしか言えんス。優勝の祝い品か何かで贈られたんじゃ?」
「そんな報告はない。それに蓋の下からパシャパシャ怪しい音もする」
俺は
「主将の命令だ。開けてみ」
バキボキ指を鳴らしながら壺に近寄る。蓋に指をかけ、
「ぬっせい!」
と
「どこの
脅し文句が尻すぼみになる。
「主将、ここ初等部とかあったんス?それとも
「
「新聞部の
「写真部!」
デジカメを首に
顔の上半分を隠すモサ髪の下に、馬鹿でかい丸眼鏡。恐らく極小サイズなのにそれでもズボン裾をたくし上げている。
「何笑ってんだよ」
俺を
「暴れんなよ先輩。無断侵入した
拳を振り回す初田をいなす俺の片手がカメラにぶつかった。
がしゃん。
ストラップが外れ、床に落下し嫌な音を立てた。
さぁっと相手の顔が
主将がカメラを拾い上げ、電源ボタンを押して一言。
「壊れた」
指から振動が伝わる。視線を下げれば、吊り下げた相手が着信を受けた携帯のようにブルブル震えていた。そしてブワッと泣き出す。
おいおい、大の(体格は小学生並だが)高校生がカメラ
「こういう機材って意外と
「金なんて無いスよ」
「じゃあ僕の言う事きいて。それ
短い腕で涙を
『
『夜の学校で蝶の羽化の写真撮るとか、大丈夫かアイツ。相当な怖がりなのに』
「そうなんス?」
『修学旅行で一人で便所に行けなかった』
ぺっ、情けない。
『にしても
「火気とか気をつけるス」
『
俺は飲んでいたコーラを吹き出した。
『まさかと思うそれが危ない。だって塩山、彼女いねえし』
「俺の好みは目がクリッとした
ニヤニヤしている気配の主将の通話を早々に切る。最悪の気分のところへ声を掛けられて「ああ⁉︎」と怒鳴ってしまった。
初田がたじろいでいた。体中に機材を巻き付け、大きな
「
「誰が妖怪だ。さっさと終わらすぞ」
後ろからついてくるが、
「だって…夜の校舎って
ウザ。俺は初田の手を
コの字型の校舎を回り
「LED設置されてる!良かった〜」
去年もここで同じ蝶の写真を撮ろうとしたのだが、一人では辿り着けなかったと言う。
「珍しい種類で、明け方じゃなく真夜中に羽化するんだ。今年は
俺は
「もしかして虫嫌い?」
否定しようとして喉を詰まらせてしまった。
「そか。じゃ脚立は諦める」
笑えよ。馬鹿にすりゃいい。デカい
「苦手があるのは人間だもん、当然じゃん。それより
少し胸がチクリとした。
初田の隣に並んでベンチに腰掛けると、鞄から大きなタッパーを出してきた。中には…
おからドーナツ、卵たっぷりカステラ、飲物は保冷タンブラーのレモンラッシー。
高
「…お」
食べてみて思わず
手が止まらず、次から次に口へ放り込む。
「
満腹になった
「男の
「付き合ってくれるんだもん、これ
エヘンと鼻の下を
さて準備だと、初田はヘアゴムを口に
「アナログカメラで
銀色の丸い板のような物を渡され、照明を反射させるよう角度と高さを
「おいコレいつまで──」
文句をつけようとして絶句した。
ベンチに立ち上がり
俺は知っている。土俵上で力士が見合った時の
眼鏡も外し、前髪がかかっていた顔も
長い
まずい。何かが非常にまずい。俺は
パシャ…パシャ…
シャッターを切る音が等間隔で響く。
軽い板を支えているだけだのに、何で俺は興奮してるんだ。相手はチビの先輩で、しかも男なんだぞ‼︎
ふと音が途切れる。板の横から
ドヒュン。
今度は間違いなく心臓が
眼の奥がガンガン痛む。相手を抱きしめたいという、人生初の衝動と俺は闘う。
「…いいかな」
初田の声で
落下寸前で俺は初田を抱き止め、一緒に地面に転がった。
「大丈夫⁉︎足
「おい指!目!
俺達はハタと見合う。異口同音だがお互いを心配している。
「だって君、相撲取りじゃん!故障が一番気をつけなきゃでしょ⁉︎」
「先輩こそ機械いじるんだから
夜の中庭で俺達は笑い出す。
「
「変な事じゃねぇよ。俺にとっての相撲と同じで、先輩にとってはそれが大事なんだろ。…ちょっと見直したぜ」
鞄からピロン♬と起動音がした。初田は例のデジカメを取り出しすと、あ、と叫ぶ。
「
片目を
「はあ⁉︎」
「大体!君が全部悪いんだっ!」
「何だと⁉︎」
「こっちは相撲してる君の
「…
「先輩が格好いいとか言うから。こっ
「は?
「内面はカスってか」
「そうは言ってないでしょ!もー
少し
「…でも今は…内面も良いと思ってる…」
その瞬間何もかもどうでも良くなった。
俺、コイツが好きだ。──好きに、なっちまった…
帰り支度を済まして撮影機材を確認する初田に、俺はグッと腕を差し出す。
「手、握ってやるよ。怖いんだろ?」
相手は元気一杯頷く。こなくそ、ジブリ映画のヒロインみてぇな太陽の香りのする笑顔、しやがって。
「今度からはちゃんと許可取って撮影に来い」
「いいの?許可してくれるの?」
俺は黙る。
やったぁ!と機材をガチャつかせ踊り出す初田。
「その代わりまたオヤツ作ってこいよ。これ絶対な」
「分かった。相撲部の皆の分ね」
「それだと材料費がかかりすぎる。俺だけにしとけ」
言ってしまって我が口を塞ぐ。俺、何か恥ずかしい事言ったよな⁉︎
初田はそれに気付かず、写真を校内新聞に
俺はこの、どうしようもなく
相撲部の俺が一コ上のチビ先輩(♂)にキュンキュンするのは全部真夜中のせいだ 鱗青 @ringsei
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