真夜中姉さん、夜更かし中

津舞庵カプチーノ

本編

 ──目が覚めた。


 私はそう、自覚をする。


 けれど、まだ朝には早いらしい。

 私の好きな渋めなカーテンの隙間から見える世界は、まだ刻々と動き出していないのだから──。

 きっと朝になったら、世界だって目を覚ますだろう。


 でも、私の世界は、今日始まりを告げた。

 心踊る出来事なんてなくとも、日常はに始まるのだから──。


「──さて、日が登るまで、何してようか?」


 真夜中の街に繰り出すのも、良いかもしれない。

 日頃は人々で賑わう街も、寝静まっている頃合い。

 そこで得られる特別感は、きっと文字通りの特別だろう。


「──けど、雨が降っているのよね」


 ざぁざぁ、と。


 ざぁざぁ、と。


 ざぁざぁざぁざぁ、と。


 ざぁざぁざぁざぁ、と。


 ガラス窓越しに、私は雨の降る音を耳にする──。


 その瞬間、ふと私は何を思ったのか、カーテンの隙間から、ガラス越しの真夜中の世界を覗く。

 そこから見える景色は、どんより雨模様。

 精々、明日は晴れて欲しいと、そう祈るばかりだ──。


「──でもそうすると、朝まで何をしていよう?」


 カチカチ──と、時を刻む時計の音。

 普段の昼間頃な日常ならば、焦りを生み出す焦燥のもの。きっとそれは、時限爆弾を思わせる事だろう。

 人という種族にとって時間とは、有限的な資源であろう。

 きっと今しがたの私の行動は、資源の浪費のそれに近い──。


 けれども、不思議と焦燥を抱かない。

 むしろ、私自身の心は、落ち着きさえも抱いているのだ。

 東奔西走している私も、案外こうして休息を求めているらしかった──。


「そうとなれば、私もの夜更かしと洒落こもうではないか♪」


 何処か私は、夜更かしを楽しんでいるみたいだ──。





 こぽこぽと、お湯が注がれる音が、寝静まった真夜中に木霊する。

 混ざりあって混ざりあって。

 白い湯気を立ち登らせる──。


「──やっぱり、こういう時はココアですよね」


 私の秘蔵のココアを、そっと口に含む。

 味の方は、私自身の秘蔵のココアと言うだけあって、味わい深い美味しさであった。




 何処か、私の心を溶かしてくれる。


 睡眠では解決出来ない何かが、消えていくような。雨によって、流されていくような。


 けれども、私はこれからの人生を歩まなければならない。


 生きて行くという積み重ねは、とても辛いものだ──。

 三途の川の石積み作業だって、まだ救いがあるってものであろう。


 でも私たちは、決して救いのない世界で、精一杯生きていかなきればならないのだ。






 でも、真夜中に夜更かしをするぐらいの寄り道ぐらいは、許されては良いだろう──。




 🔷 🔷 🔷 🔷 🔷 🔷 🔷 🔷 🔷


 お疲れ様です。

 感想やレビューなどなど。お待ちしております。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

真夜中姉さん、夜更かし中 津舞庵カプチーノ @yukimn

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ