密着! 飯テロ警察24時!

寄鍋一人

夜間食欲刺激物陳列罪

 SNSが普及し、誰もが好きな時間、好きなことを好きなように発信することができるようになった現代。新しいことができるようになったということは、伴って新しい犯罪もできるようになってしまうということになる。


 これまで数々の犯罪を取り締まってきた敏腕捜査官たちの中でも特に優秀な者を集め、専門の対策本部が新設された。彼らが取り締まるのは、近年被害者数が増加の一途をたどり社会問題になりつつあるとある事件。一人でも多くの市民を魔の手から救おうと、精鋭の捜査官たちは夜を徹して捜査を行う。


 番組は彼らの捜査に密着した。




 午後十一時、対策本部が動き出した。事件の特性上、彼らの取り締まりは真夜中に行われる。


 捜査官たちは足早に部屋に入ると、携帯やタブレットを自分たちの目の前に取り出した。パソコンを起動すると、頭上まで並んだディスプレイが次々と点灯していく。これら画面の数、一人平均でおよそ十。彼らは自身の経験と培った鋭い観察眼を光らせ、その十枚の画面を凝視する。


 画面には市民が見慣れているであろうSNSのウィンドウが表示されていて、捜査官たちはタイムラインを素早くスクロールしていく。そのスピードは、カメラマンには投稿の内容が判断できないほど。




 午後十二時前、一人の捜査官が淡々と告げる。


「アカウント名〇〇ー、ID〇〇ー、フォロワー約二百名に対し焼き肉の写真を投稿ー。内容は『誕生日で焼き肉パーティ。とても美味しかったです』とのこと」


 報告が終わると、他の捜査官たちが反応する。


「誕生日でもダメなものはダメですね」 「焼き肉は重いねぇ」


 事件の報告を受け、別の捜査官が投稿に対しリプライを送る。


『FF外から失礼します。食欲刺激物対策本部の公式アカウントです。真夜中にそのように美味しそうな焼き肉の写真を投稿するのは、夜間食欲刺激物陳列罪に抵触するおそれがあります。早急に削除ください』




 一人の捜査官に話を聞いた。


 ——近年増えてきているいわゆる”飯テロ”ですが、このように広まってしまった背景はなんでしょう?


「ご存知の通りSNSの普及が根底にありますが、同時に、誰かに自分の幸せを見てもらいたい、嫉妬されたい。そういう感情を、料理で誇示して解消している。人間の三大欲求である食欲に訴えていることで、より顕著に事件として露呈してきているのだと思います」


 ——そういう投稿がされても見ないようにすれば被害には遭わないのではと思いましたが、被害が増えてしまうのはなぜなんでしょう?


「交通事故だって、気を付けていても巻き込まれて被害に遭う方がいると思います。注意して避けていても、思いがけず遭遇してしまうものなんですよね」




 話を聞いている最中にも、後ろでは事件を報告する声が飛び交う。


「カップラーメンの写真の投稿あり。『夜中のこれは犯罪』という内容で罪を認めています」


「写真なし、から揚げを揚げて飲酒の旨を投稿しています」



 投稿の削除要請等で点数をつけられ、重ねればアカウント停止などの処置が行われる。削除要請に応えなかったり、被害が大きい場合はアカウントを追跡、逮捕と続くこともあるという。




 夜間食欲刺激物陳列罪。真夜中に美味しそうな料理を投稿する責任は大きい。


 飯テロの毒牙にかかる市民が減ることを願い、彼らは今夜もタイムラインを追いかける。

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