我儘な祷り

銀河の旅人

”シ”を超越し調停となるもの

 ー少女ー


 私は我儘なの……。常に我儘で、親苦労も知らないで生きてきてた。あまりにも両親に我儘をするから、ある日も普通に我儘をしたら唐突に、両親は激高し自分たちの記憶を消してまでして私のことを暗闇に閉じ込めたの……。この娘は見なかったことにしようと暴言を吐いてなにもない石造りの地下空間に私を取り残して……。


 初めは、とっても怖かった。漆黒の暗闇に閉じ込められて、最期にこっちを見た時両親の頬は滑稽になっていて傲慢だった……。怖すぎたの……自分という存在を否定されて監獄に閉じ込められて……孤独を感じた。それで、ずっと泣き続けた。もう永遠に会うこともないんだって……。そこから水を飲まず食べ物も来ないから時間が地滅茶苦茶長くゆっくり過ぎていったの。そして、気付けば無限に時間が過ぎている感覚がして……。体の感覚が麻痺し始めて横になり自然と瞼が重くなり始めた。


 そうだね。これが”シ”だと思ったの。それと同時に”浄化”とも感じれた。

 だって、真っ暗闇に閉じ込められて無限にも過ぎる時間をやり過ごしたのと思ったの。何処までも遠くにあると思っていたが、その時だけは本当に近くにあって近くて熱くて涙が止まらない。


「ようやくこの苦しみから開放されるのね……」


 私の口から溢れた言葉を残し私は眠りについたの。

 冷たい石畳に、体を横になって目をつむったの。


 そして……数年後……私は変わり果てた世界で目をさますことになったの。


 -少年ー


 僕は、死んでも死にきれない。どうやら”シ”を超越してしまったらしい。

 ”シ”を超越する。それはつまり不死身になるって事だ。

 不死身になって、数千年。肉体は朽ちることなくずっとこのまま過ごしている。

 そして、幾度も人が産まれ衰退する歴史を目の当たりにしてきた。

 人々から少し離れた所で、皆を見守る歴史を観護り陰で支えるという役割を果たしている。


 ”シ”を超越した人は、圧倒的な力とその力で強大なものを鎮める力を持っている。俺だってそうだ。いわゆる調停の力という奴だ。


 そして、数千年も経てば”シ”を超越してしまった人は僕以外にも数名いる。

 その数名は、皆歳も性格も異なる。そして、陰で支えつつ強大な勢力が出来たときは集合して圧倒的な力で鎮圧させ調停と保ってきている。


 今、僕たち”シ”を超越した者達は新たな同胞を求めて東へ西へと旅をしている。何か大きな調停を翻すものを探して。ある日ある村にやってくると、狂気じみた雰囲気の夫婦を見つけた。その夫婦は、子供を連れ歩いているがどうやら何かがおかしい。そう感じた僕たちは、その夫婦の行動を監視することにした。数日後、夫婦は子供を連れ歩いていた。しかし、連れ歩いている子供は全く性別の異なる子であった。夫婦の顔は恍惚としており、恐ろしいと考え自宅へと忍び込む。夫婦は、オーラで他人の家を問答無用で破壊している。その惨状を目撃した俺達は圧倒的な力で夫婦へと迫る。


 しかし、夫婦もまた別の『シ』を超えた者達であった。だが、その『シ』は、物理的な意味ではなく精神的にという意味でありそれは同時に何をするのかわからない者達という事でもあった。そこから日夜問わず闘いが始まった。その闘いは、家を吹き飛ばし村々を跡形もなく消し飛ばす。それですら終わることなく俺たちの戦いは嵐となり城塞都市やこの時代にあった調停を逸脱した国々を一週間で滅ぼすことになってしまった。これは、偶然だろうか。いや、これは必然であったのだろう。そこから数ヶ月、最期の一撃を相手に与え敵を倒すことに成功する。そして俺たちは勝利した。それと同時に、を失った。調停するという本来の役割を逸脱し総てを破壊しリセットするという世界を失ったのだ。山々は平坦に川は埋もれ森は根本から折れる。辺り一面フラットな世界が構築されていた。


 もうなにもないというわけではなく、地下は無事であった。ところどころ地下もろともえぐり取られた部分はあるが無事な部分があることは彼らにとっては救いだった。そこから彼らは、生きている人々を探し保護をすることにした。総てをゼロに戻した後、今度は自分たちが暴走しないようないい場所を作るために奔走する。それが歴史の繰り返しになるとは誰も知ることもなく……。


 そして、僕は夫婦の住んでいた家跡地に何故か足が赴いた。そして衝撃の事実が発覚する。何メートルも地下奥深くに地下があることを発見した。竪穴に数名の仲間とともに地下へと入る。


 そこは、一定間隔で並べられている石の扉があり1つずつ開けていく。

総てを探索し終えなにもないことを確認していると仲間の1人が隠し扉を見つける。隠し扉が頑丈であり、とても重い石が扉の役割を果たしていた。俺らは必死こいて中身を確認するために石を動かす事になる。


 ゴゴゴゴゴゴ……ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


 轟音が鳴り響き、真っ暗闇を見つめる。異常なまでに、沈黙しているその場所にはなにもないと思っていた。すると、そこには誰にもわからない少女が眠っていたのだ。そして彼女は”シ”を克服しているとわかり仲間で起こす。そして、体を片手で持ち上げ何処かへと運んでいくのであった。


ー少女ー

 数年以上閉じていた瞼がピクピク動く。ここは、天国なのだろうか。けど、地面の感覚が石とは違い柔らかい空間そして、なにか優しいものに包まれている。そっと重い瞼を開けると私は水の中に浮かんでいる。正確には、肉体が成長し少し大人びている。細りきった肉体には肉が付き胸が膨らみ、顔も丸みを帯びていた。そして、私の目の前には1人の白衣を着た女性がいた。女性はこっちが目を開けたのを見てこっちに近づいてくる。高身長、胸は普通、顔つきも普通の彼女は私に声をかけてくれた。


「この世界は、ある理由で荒廃したの。あなたの力には祷りの力があるの。その力はとても貴重……だからね。この世界がもとに戻るように祷りの力を使ってほしいの」


 私、我儘だったのにどうしてそんな力が? 

いや、力があるって言って強いてるのかもしれない……。

私の両親がそうだったから……。


「ふーん、そうなんだ。私には、人の感情を読めてね。あなたの感情も読めるのよ。そうねえ。こう言えばいいかしら、ここにいる人達はほとんどが”シ”を超越した者達、通称”超越者”ともいえる場所なの。ここには、色々な種類の人々がいるのよ。ちなみにあなたの両親に関しては、リーダに事の顛末を聞いてね」


 えっ……エッチ……。

……超越者って事は私もそうなんだ。

どうしてあなたは、私の気持ちを読めるの。

後は……リーダってどんな人なの。


「一気に質問してこないの。まあ、いいわ1つずつ答えていくね。ふふふ、感情を読み解く力を駆使すればいいことにも使えるし悪いことにも使えるの。気持ちを読めるにはまず知っておかないといけないことがあるね。それは超越者はそれぞれ”シ”を経験して全く真反対の力が目覚めるの。私の場合は耳をふさいですべての気持ちをシャットダウンしてたの。精神的に物理的にも”シ”を迎えて超越してその力を得たのよ。そして私達のリーダなんてね。弱々しくて総てを投げ出して逃げる泣き虫だったのよ。でもね。”シ”を経験して初めてそれを超えた時、恐るべき力を手に入れたらしいの。だからね。あなたも我儘ってのが、反転して救済って力、になったんじゃないかなって私は思うよ」


 なるほど……私はのために救済を望むのがいいんだね。


「うん、それがいいよ。のために祷りを捧げるのがいいよ。祷りを捧げるには目を閉じて集中して行うのがいいよ」


 自分に本当に力があるのか分からないけど言われたとおりに眼を閉じるね。数分でここ周辺だけを綺麗に浄化するね。


「その勢いのまま頑張ってね。数分後、水を抜くから起き上がってこっちに来て頂戴」


 分かった。


 彼女の気持ちを読んでいた女性は、その場所からスタスタと去っていく。

優しい気持ち、温かい気持ちが私に伝ってくる。これって嬉しいんだね。どうして世界が荒廃したのかは分からない。私の両親の反応は何処にもないって何故か分かる……。皆が私を救ってくれたんだね。を犠牲にしてまで私を護ってくれたんだね。


 だったら、私は祷りでを蘇生する番だ。さっきの話を聞く限り、世界は今”シ”を経験したのだろうね。だったら私は祷りで世界を救ってみせる。そっと瞼を閉じる。だけど、前とは違う。温かみのある水の中でゆっくりと落ち着いて。

そして両手を胸のあたりに近付け深呼吸をして荒れ果てた世界をイメージする。そこから、反転つまり浄化をイメージする。


……それから暫く彼女は眼を閉じ続けた。

そして世界に劇的な変化が訪れ始める。

まず初めに大地に緑がやどり空が浄化され始める。

空が浄化されたら大地の浄化が同時に始まり。

それと同時に、空氣の浄化も始まる。

薄汚れた大気があっという間に光へと転換され緑は前よりも輝き森は一層と生い茂り大地が隆起し雨が降る。そして、変化は収まった。自然は復活したのだ。


そして、瞼を開くと緑が生い茂り苔が生えていた。他の超越者達が、何があったのかとこちらに向かって来る。喜んでいるものもいれば悲しんでいるものもいる。

そしてリーダらしき人物が私の所に近付いてきた。そして、私の裸体なんかに目も暮れず私に対して。


「祷りを捧げてくれてありがとう。我儘だった子の祷り、僕たちが見守ったよ。そして、ようこそ”シ”を超えた世界に君を歓迎するよ」


と……。それが少年と少女の出会いであり。世界を復刻させ、新たな歴史の1ページを刻み始める一瞬だった。これは、後の世に終わりと始まりの調停者達とされており伝説にもなっているが……。今も彼らは生きていると噂されているらしい。調停のために、この世界をいつまでも見守っているのだ。






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