執事の休日

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執事の休日

今日は久しぶりの連休を使い、地元に住む婆ちゃんのお見舞いに来た。婆ちゃんが好きなチューリップを持って。婆ちゃんに手渡すと『とっても可愛いわね。ありがとう』と言ってチューリップを愛おしく眺めている。


婆ちゃんに「なぜチューリップが好きなのか」と尋ねると、爺ちゃんに出会う前、婆ちゃんは家庭教師をしていた事があり、そのお宅ではいつも綺麗に整列したチューリップが植えられていたそうだ。それからチューリップが好きになったのだとか。


そんな話をしていると婆ちゃんが『そういえばあの時いただいたクッキー、とっても美味しかったのよ。また食べたいわね』と言うので、スマホで一応調べてみる事にした。


婆ちゃんが言うには、その頃日本は砂糖がとても貴重で、焼き菓子自体が物珍しかったそうだ。お手伝いさんから、これはウィーンの有名な洋菓子店のクッキーと言う焼き菓子だと教えてもらったそうだ。


〈ウイーン 洋菓子店 有名 クッキー〉で検索してみると数軒がヒットした。ヒットしたお店の画像を次々と婆ちゃんに見せると、ロゴが複雑なある店の画像の所で婆ちゃんの目が釘付けになった。このお店で間違いないそうで、商品や店舗情報も覗いてみる。すると病院から車で20分ほどの百貨店にこのお店がある事が分かった。病室に昼食が運ばれて来たので「1時間位で戻る」と婆ちゃんに言い残し、百貨店へと向かった。


《1時間後》

【ノックの音・トントントン】「お嬢様、失礼いたします」【病室の引き戸を開ける音・ガラガラ】

「キミエお嬢様、お茶の時間でございます。本日はウイーンで有名な洋菓子店のクッキーをご用意いたしました。

ウイーンではクッキーにはコーヒーを合わせるようでございます。それでは、ごゆっくりお召し上がりくださいませ」

婆ちゃんは口をポカーンと開けて驚いている。俺は慌てて婆ちゃんに「驚かせてごめんよ。俺の執事の仕事、婆ちゃんに見せてあげたくてさ。どう?燕尾服姿、様になってた?」といつもの調子で言うと『お嬢様だなんて恥ずかしいわよ。それにしても爺ちゃんソックリの男前でビックリしたわよ』と本当に驚いたようで、いつもより早口で鼻息も荒めだ。

今日病院に来る途中、クリーニング屋を見つけたので仕事用の燕尾服を預け、病院に戻る途中クリーニングが終わった燕尾服を受け取り病院で着替えさせてもらった、というわけだ。


「ねぇ、コーヒー冷めないうちに飲んで。クッキー、あの時食べたのと同じ味だと嬉しいんだけど」と婆ちゃんを促すと、持ち上げたコーヒーカップを見て『あらっチューリップじゃないの!どうしたのよ、これ』と嬉しそうに聞いてくるので、俺も笑顔で「クッキーと一緒に百貨店で見つけて買ったんだ。もちろん婆ちゃんにプレゼントだよ」と答えた。

婆ちゃんは先にコーヒーの香りを確かめてからコーヒーを口に含んだ。目を瞑ってコーヒーを堪能している。そしてクッキーに手が伸びた。サクっと音がしてから『そう、この味よ。とっても美味しいわ』と感激しているようで婆ちゃんは言葉に詰まりながらそう言った。


その後、面会時間いっぱいまで婆ちゃんから昔話を聞かせてもらった。俺が「そろそろ帰るわ」と言うと、婆ちゃんは『うん。今日は本当ありがとう。とっても楽しかった。執事の仕事大変だろうけど頑張るんだよ』と励まされてしまった。


《次の日》

【ドアベルの音・ピンポンピンポーン】はいはい、今開けますよー はーい【玄関ドアを開ける・ガチャ】

「(ビックリして少し早口で)えっ?△△お嬢様、びしょ濡れじゃないですかっ!お風邪をひかれたら大変でございます。うちのバスルーム、狭いですけど使ってください。その間にお召し物を乾燥機にかけておきますから」


この続きはまた別のお話

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