第5話
随分ふんわりとした問いかけに何と答えたものか考えあぐねていると、お兄さんもなんと説明したら良いのか困っている様子でしきりに「あー」とか「うー」とか言い始めた。
早朝とはいえぼちぼち出勤する人も出てくる時間帯に、改札横で男女何やら話込んでいる(ように見える)姿は目を引くらしく、チラリチラリと視線が痛い。
居た堪れないのとお兄さんが気の毒になってきたので多分、おそらく、きっと正解であろう答えを返してあげることにした。
自分の胸の辺りを指でトントンと叩いて「コレなら大丈夫ですよ、大人しいので。」
驚いた顔のお兄さんに、ネタバラしはここまで!とばかりに、朝ごはんとお礼の入った袋を押し付けて、「ありがとね!」と手を振りながら改札の中に入るとそのままホームまで駆け上がった。
逃げる必要はないのだけど、説明がめんど…難しいのと、なかなか優秀な人みたいだからちょっとだけ警戒もして。
お兄さんと森の中を歩いている時、楽しそうにおしゃべりしながらこちらに気付かせないようにさりげなく何体か悪いモノを退治してたんだよね。普通の人ならまず気付かない。
乗り換えた電車で指定席に座ると、揺れに合わせて意識が浮いたり沈んだり。そんなふわふわした頭で取り留めのない考えが泡のように生まれては消えていく。
「…あの男なら、できたかも知れんぞ」
「…却下」
そのまま目的地まで爆睡した。結局買った朝ごはんはお昼ご飯になった。
「憑りつかれてるわけではなさそうだね。」
昨日の課外授業のレポートを提出がてら、その時に出会った普通の会社員のお姉さんのことを担任に話してみた。
確かに最初に何者かの気配を感じて声を掛けたけど、一緒にいる間は全く感じなかった。気のせいだったのだろうか、と物思いに耽っていると、
「ま、ご縁があればまた会うでしょ。」
意味ありげにニヤッと笑って肩をポンポンと叩かれた。
教員室を辞して寮の自室に戻ると盛大なあくびを一つ。もらった袋の中を覗いて一眠りしてからいただこうとベッドに横になった瞬間に意識が飛んで行った。目が覚めると既に夕方。朝ごはんは夕飯前に美味しくいただきました。
練習1 Ayane @tenn1027
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