さよならをイメージして

飯田太朗

イメージは完璧なはずだった。

 三度の転校にもなるとさすがに慣れてきたというか、僕も悟るようになった。

 例えそこで友達を作っても、結局親の仕事が変われば全部なかったことになる。友達なんて作るだけ無駄。なるべく存在感をなくして空気になって、誰からも注目されず誰からも覚えられない存在になれば、心の傷も減っていく。幼いながらに漠然とそんなことを思っていた。なのにこの、六年生の春に行った先の学校で、こんな子に会うとは。

「どこから来たの? どんなところだった?」

 一言で言えば好奇心旺盛な子だった。目新しいことには何にでも飛びつく。僕もその対象だった。外の世界から来た新しい男の子。

 ハッキリ言って邪魔だった。僕は空気になりたい。誰にも見られない、誰からも気にされない、そんな存在になりたかった。なのにあいつは。

「一緒に帰ろう!」

「お家に行っていい?」

「お昼休み遊ぼう!」

 明るい笑顔で、お気に入りなんだろう、似たようなスカートをいつも履いていて、他の子と違った色のランドセルを揺らして、活発で、元気で。

 絆されないわけがない。気が付けば僕は彼女と一緒に笑っていて、彼女とおしゃべりしていて、彼女と遊んでいて、そして、彼女を見ると胸に何かが滲むようになった。

 そんな中だ。先生が学年を集めて説明をしたのは。

「学区の関係で、この学校の生徒は中学校が二つに分かれます」

 滲んだ何かが塗りつぶされるのを感じた。必死に先生の話を聞く。僕とあいつは、僕とあいつは、ああどうか神様、僕とあいつは……。

「中学校、違ったね」

 その日の帰り。口をつぐんだ僕に彼女は静かに笑った。学校違っても遊ぼうね、とも言ってくれた。簡単な話だったんだ。うん、遊ぼう。って、言えばよかったんだ。なのに。

「知るかよ」

 そんな言葉が、出てしまった。

「そっか」

 それからずっと、後悔している。

 中学に行って、やっぱりクラスに馴染めずにいると、思い出す。

 あの明るい笑顔を。

 さよならは慣れていたはずなのに。

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さよならをイメージして 飯田太朗 @taroIda

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