シン・君はバナナ

日曜日よりの使者。

芭蕉とバナナ

「どうしてあんたがそんなこと言うのよ!!!」


私はバナナに向かってそう叫び、彼の元から走りさった。目から出た涙が風を受け頬を伝う。


ー君はバナナー


あいつが私にそう言った。私はバナナなんかじゃない。私は私。


---------------------


「まぁ立派な芭蕉だこと。」


露地で生活を営む老人がそう言った時、自分が芭蕉であることを初めて知った。私は芭蕉。他の何者でもない。横を見れば同じ顔をした実がひと房となって並んでいる。自分もその中の一つでしかないという現実が嫌になった。


立派な芭蕉になるために、私は旅にでた。山をこえ、谷をこえ、歩き続けていると街に出た。そこにはいろんな果実達が暮らしていた。立派に実った葡萄。まるまると太ったミカン。それぞれが、各々の存在理由を理解し生活していた。


そんな果実達を見て、私は劣等感に苛まれた。

私は何者?どうして私は生まれてきたの?私は立派な芭蕉になって、どうしようとしてるの?


それから私は自暴自棄になり、荒れた生活を送った。時には行きずりのごぼうと一夜を共にすることもあった。自分が何をしたらいいのかわからない。何がしたいのかわからない。私は芭蕉。それ以上でも、それ以下でもない。


大雨が降る夜。私は雨に打たれながら立っていた。これから先、どうしていいかわからない。もういっそ、このまま雨に打たれて腐って土にかえりたい。


すると突然雨やんだ。


「君はバナナ。」


「えっ」


振り返るとそこには私に似た姿をした何かが、バナナの葉を傘がわりにさして立っていた。ものすごく私に似てる。でも何かが違う。


「君はバナナ。」


「私はバナナなんかじゃない。あんた誰よ。」


「僕はバナナ。人間達からは実芭蕉とも呼ばれる。」


「実芭蕉…?それってー」


「そう君は芭蕉、僕は実芭蕉。君は誰にも食べられない。でも僕は誰かから食べてもらえる。」


胸の中で黒い感情が湧き上がった。


「どう言う意味よ。あんた、自分が食用だからって私より優勢って思ってるのね。」


しかしバナナは、「君はバナナ」とだけ繰り返す。


「どうしてあんたがそんなこと言うのよ!!!」


私はバナナに向かってそう叫び、彼の元から走りさった。目から出た涙が風を受け頬を伝う。あいつがバナナだからなんだっていうのよ。私はバナナなんかじゃない。私は私。


走り出してすぐ、石につまずいて転んだ。泥水が皮に飛び散った。私は結局何もできない。何がしたいのかもわからない。惨め。あまりに惨め。


ただ立派になりたかった。自分が思い描く自分になりたかった。

でももう、今すぐ消えてなくなりたい。


そう願った瞬間。突然あたりの景色が白くなり、体が浮遊した。




これは?誰もいない世界。何もない世界


ー自由な世界


誰?


ーどちらが本当の気持ちなの?


わからない。いや、どちらも本当の気持ちよ。


ーだからあなたは芭蕉なのね


私は芭蕉。バナナなのかもしれない。


ーなんや転校生、ホンマは自分でも気づいてるんやないか


そう、私ははじめからわかってる。でも、わからない。


ーあんたバカぁ?あんたが一人でそう思い込んでるだけじゃないの。内罰的なのよ、根本的にぃ!!


私は、ここにいてもいいのかもしれない。私は私でしかない。そうよ、私でいたい!私はここにいていいんだ!!




すると突然、透明のガラスが砕け散り世界が開けた。気がつくと果実や野菜達が私を囲み、笑顔をこちらに向けていた。歓声が湧く。



みかん「おめでとう」

ぶどう「おめでとう」

ごぼう「おめでとう」

りんご「おめでとう」

大根「おめでとう」

バナナ「おめでとう」



父に、ありがとう



母に、さようなら



そして、全ての子供達チルドレン



おめでとう

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

シン・君はバナナ 日曜日よりの使者。 @magunusen

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ