だから君の目を塞いだ

鈴宮縁

だから君の目を塞いだ

 暗い部屋で、冷たい床に転がる彼女を見る。

 縮こまって、震えて、顔を覆って。

 わずかな光でぼんやりと見える白い肌にはなにか黒い線が入っているように見えた。

 彼女が何か呟いている。「助けて」だとか、「やめて」だとか、「怖い」だとか、「許して」だとか。

 私の手の中で、そんな彼女の綺麗な目玉が二つ、赤黒い血に塗れていた。

「私は、私だけを見ていて欲しかっただけなの」

 ずっとそばにいた私を差し置いて、彼女は他の人を見て、「好き」と言った。彼女はわたしではない人を愛した。

 一番近くで、ずっと一途に彼女を愛していた私が、報われないなんてそんなのは酷すぎると思った。だから、私以外を見る彼女なら、私すら見えない方がいくらかマシだと思った。

 もう彼女は誰のことも見ない。見ることができない。この先彼女は記憶の中の顔を思い出すことだろう。その記憶の中の顔で、きっと鮮明に思い出すのは私の顔のはずだ。ずっとそばにいる、私の。

 さっき救急車を呼んだ。万一、失血で彼女が死ぬなんて耐えられないから。

 きっと、私は捕まることだろう。

 きっと、彼女に近づくことを禁止されるだろう。

 それらは本当に怖いことだけれども、私の人生できっと一番に辛いことになるだろうとも、それと同時に私は永遠の幸せを手に入れる。

 彼女の記憶から、私は一生消えないだろう。それは本望だ。絶対に彼女から忘れられることのない存在になれること。

 だから私は、彼女の目を塞いだ。

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だから君の目を塞いだ 鈴宮縁 @suzumiya__yukari

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