第80話 恋愛映画!?
「え? 恋愛映画? これから見るの?」
「おう。ちょどさ、気になっててね。せっかくだしどうかな?」
古井さんとの電話後、俺は店に戻り早速友里に話を持ち掛ける。
俺の口から『恋愛映画』という単語が出た途端、スプーンを持つ手が止まり、驚きのせいか、友里は目を大きく開けた。
まあ、俺の口からそんな単語が出てきたら、驚いちまうよな。恋愛映画なんて見るタイプじゃないし。
「どどどどどどどどうしたの涼⁉ 涼って実は恋愛映画とかよく見るの⁉」
数秒間固まった後、友里はバンッとテーブルを叩きながら、顔を俺に近づける。
「頻繁に見るわけじゃないけど、CMを見てちょっと気になったんだ。何か面白そうだなって。口コミを見ても、結構評価が高かったし」
「確かに今の中高生の間では面白いって評判だけど、まさか涼が気になっていたなんて……」
ちなみに俺達がこの後見る予定の映画は、『ラブサマー』という、もうすでにタイトルからしてゴリゴリの恋愛映画だ。
話は簡単で、とある高校に転校してきた女子高校生が、学校で大人気のイケメン男子にモテてしまう、というまあよくあるベタな映画だ。
だがシリアスな展開や、予想外のストーリーになっているらしく、結構話題を呼んでいる。リピーターも増えつつあるらしい。
「どうかな? 行く?」
「勿論! こりゃ行くしかないよ! いや~、涼と映画を一緒に見れるなんて、これはラッキーだよ! 超嬉しい!」
明るくニッコリと笑う友里。どうやら行く気満々みたいだ。
「よし。じゃあこの後、映画館に行こうか。チケットはネットから予約できるから、今やっておく」
「ありがとう~! めっちゃ楽しみだな~」
友里は店を出るまで、ずっとニヤついたままチーズオムライスを食べたのだった。
◇◇◇◇
「それでは三番シアターへどうぞ!」
係員の人に誘導され、俺と友里はそのまま三番シアターへと向かう。
「マジで楽しみだね~。クラスの男子と恋愛映画見るのは、人生で初だね!」
「俺も女子と見るのは初めてだな。ってか、こういう映画って、テレビでの再放送なら時々見てたんだけど、劇場は初めてだ」
「お~! 涼殿! 恋愛映画はテレビではなく、ぜひ劇場で見るべきであります!」
「ど、どうした急に口調を変えて……」
友里が突然口調を変えたと思ったら、恋愛映画の魅力について、専門家の様に熱く語り始める。
「まずあの暗くて静かな空間だからこそ、映画の世界に入り込むことができるのですよ! そしてそのまま特別な空間の中で、普段味わえない恋愛を楽しむことができる! だからこそ、テレビではなく映画館に足を運んでもらいたいものですな~」
「すべぇ熱烈なファンなんだな、おい。やっぱりこの年頃の女子は皆好きだよな」
「まあね~。熱く、そして心がキュンキュンする恋をしてみたくなるもんよ! あ~あ、誰か私の彼氏になってくれないかな~?」
と、神様におねだりする様に言いつつも、俺の目を覗き込むようにジーッと見つめる。
何かを訴えている気がするが……。もしかして俺が彼氏になって欲しいとか?
いやいやいやいや! あるわけがない! そんなの絶対にない!
友里はコミュ力の塊で、クラスで一番と言っていいほどの明るく、そして人当たりの良い人だ。学年でもトップクラスの美少女だし。だからちょっと俺をからかっているだけだ。
「ゆ、友里ならいつでも彼氏ぐらいできるんじゃないか?」
「お? それは誉め言葉として受け取っていいのかな?」
「まあ、そりゃ綺麗で人当たりも良いし。彼女にしたい人はいくらでもいるんじゃないか?」
俺がそう言った途端。
ポンッ!
と、友里の方からまるで自転車のタイヤがパンクしたかの様な音が聞こえた。
すぐさま目を向けると、熟れたトマトの様に顔が真っ赤になっており、またあんなにも映画について熱く語っていたのに、急に黙り込んでしまった。
「あれ、友里どうした?」
「…………い、いや別に。ただ涼からそんな誉め言葉を言ってもらえるとは思ってもいなくて。う、嬉しくて……」
そのまま友里は、俺の服の袖をチョンッと掴みだす。三番シアターへ続く道の途中で、俺と友里は足を止めてジッと見つめ合う。
「りょ、涼はさ……。今彼女とか欲しいの? 好きな人とかいるの?」
「え、お、俺?」
「う、うん。涼って、今……」
少しの沈黙が流れた後、友里は口を開いた。
「好きな人がいるの?」
好きな人か……。
考えてもいなかった。ずっとトラブル続きで、あんまりそういうことは考えていなかった。
ってか、俺なんかが好きな人を作ったところで、モテるのか?
俺は別にイケメンでもなければ、頭が超良いとわけでもない。どこにでもいる普通の男子高校生だ。まあ、通り魔を撃退したことがあるが、別にそれを誇りとして生きているわけじゃないし、誰かに自慢もするつもりもない。
モテ要素は特にない。だからあんまり恋愛に関しては深く考えてはいなかったが。
俺は今、好きな人とかいるのか?
誰を好きになりたい? 誰を愛したい? 誰と一緒にいたい?
そう自問自答する。そして俺の頭に最初に思い浮かんだのは……。
「お、俺は……」
友里に言いかけた、その時だ。
「あれ? 涼君と友里だ! 今から映画見に行くの?」
背後から俺達の名前を呼ぶ声が聞こえた。
俺はすぐさま後ろを振り向くと、大きなポッポコーンとジュースを持ったひなみと、そして古井さんが立っていた。
どうやらたった今、俺達は合流することができたみたいだ。
俺が言いかけた時に現れるなんて、タイミングが良いのか悪いのか……。
「あれ~? ひなみと古井っちじゃん! どうしてここに?」
「私達これからラブサマーでも見ようかなって思って」
「お~、そうなんだ~。すっごい偶然だね!」
「そうだね、友里」
「まさか、友里と同じ時間帯に映画を見るとはね。驚いたわ」
「そうだね~。にしても凄くない? 涼もさっき一人でいるところを偶然見つけて、一緒に映画を見に来たの。なーんかミラクルが起きていますね~」
さすがに偶然が重なり過ぎて、少し考え出す友里。
やっぱり無理があったか。そりゃ俺達四人が別行動をしていたのに、偶然出会ってそのまま映画館で合流するなんて、怪しまれるよな。
「これはつまり……神様からのご褒美かな! マジで奇跡だね!」
友里に気づかれるか、と思っていたが、どうやらこの言葉を聞く限り、変に深く考えていないみたいだ。よ、良かった……。
「そうね。ま、そういう時もあるわよ。それよりも早く行きましょう。もうそろそろで始まるだろうし」
古井さんはそのまま三番シアターの方へと歩き出す。
俺もすぐに行こう思い、古井さんの後を追いかける。するといつの間にか大きなポップコーンを持ったひなみが俺のすぐ隣を歩いていた。そして友里に聞かれない様に小さな声で話し始める。
「りょ、涼君。本当に偶然友里と出会ったの? というか、そもそも涼君はどうしてここに?」
「え? ああ。まあちょっと買いたい物があってな。ブラブラ歩いていたら友里と偶然会って。そのままここに来たんだ」
「そ、そっか……。ちょっと安心。えへへ」
俺がそう言うと、ひなみは口角を上げ、嬉しそうな表情を見せる。
ひなみの笑っている顔が見れて良かった。ストーカーの件があるが、楽しそうにしてくれて何よりだ。
……あれ? 俺はどうしてこんなにも。誰よりも……。
ひなみのことを守りたいんだ? 大切にしたいと思っているんだ?
俺の中で、解決できない疑問が心の中に生まれてしまった。
――――
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