異世界へとたどり着く 08
「カエデくんの魔力の量は平均より少なく、得意な魔法の属性は特に無し、といったところじゃな。ふむ、なるほどのぅ」
エイスの観察の結果を聞いて、楓は不安を感じる。
「それってダメってことなんじゃ?」
「魔力の量は、使い方次第でなんとでもなる。安心するが良い」
「うーん、そういうもんですか……」
フォローされたが、どこか不安が残る楓は、ふと気になった。
「エイスさんがさっきの使うとどうなるんですか?」
「…………」
エイスは答えずに、楓をじっと見ていた。不思議に思う楓は首を傾げる。
「カエデくん、ワシに気を使う必要なんてない。……細かく言えば、気を使う相手は選んだ方が良い」
「えっと……」
エイスの言うことがイマイチ飲み込めていない楓だったが、予想をして答える。
「それは敬語とかを止めて欲しいってことですか?」
基本的に楓は目上の人や、上司にあたる人には敬語で接している。前の世界から当たり前のように存在するマナーや空気が、誰に教わるでもなく、自然とやっていた。
「前の世界ではその話し方で良かったのかもしれんが、この世界では別じゃ。さっきメディも口にしたが、この世界には天使がおる。天使はこの世界の頂上に君臨していて、多少の知性を持った生物なら天使に逆らう者はおらん」
天使?と、楓は益々頭をひねったが、エイスの説明を受けて考える。
「天使は個性的な面々ばかりじゃが、全ての天使に共通していることは、その力、もっと言えば魔力じゃな。過去に、一人の天使が一つの国をたった一日で崩壊させた、なんて話もあるくらいじゃ。そんな誰もが畏れ敬う存在の天使とは別に、人が人に対して敬いを示す言動をしている事が天使に知られれば」
楓は予想する。
「天使はそんな事で怒るんですか?」
楓は天使の器量の無さに驚く。
「怒る天使も少なからず存在するということじゃ。じゃから、今後のキミのためを思ってワシは言っている」
「……そうなんで、そうなんだな……」
ここで楓は意識的に敬語を止めた。何時どこで天使に聞かれているか分からないという事も、理解していた。
「それじゃあ、エイスさん。こんな感じでいかせてもらうけど、いいかな?」
敬語を止めても、敬称は残したままエイスに確認する。
「まぁ及第点と言ったところじゃろ。さて、ワシがキューブを使用したらどうなるか、じゃったな」
話を戻したエイスは、懐から楓に渡した同じキューブを取り出した。
「少し離れてなさい」
言われるがまま楓は後方に下がる。エイスはそれを見届けてから、軽く拳を作った。持ちら拳の中には取り出したキューブが入っている。
「さてと、では」
そう宣言すると、エイスは楓が投げたキューブの近くに投げた。地面に転がったキューブはピクリとも動かない。
「あれ?」
少しでも変化はないか、確認したかった楓は反応の無いキューブに一歩近づいてしまう。一歩踏み締めた瞬間、キューブは瞬く間に大きくなった。その大きさは二階建てのログハウスを超えた辺りで収まった。
「……すげぇ……」
楓の目と鼻の先までキューブは迫っていた。エイスの魔力の量を目で見て、自分の魔力の少なさを
「ま、こんなもんじゃな」
エイスは誇ることも無く、当たり前のように言った。
「魔力の量は経験に比例して変動する。カエデくんも成長すればここまでなる」
「そうなのか……。あ、そういえばこのエイスさんのこのキューブの色は何を示しているんだ?」
大きくなったキューブの中は、赤色になったかと思えば、青色や黄色になったりとキューブの色が安定していない。
「得意な魔法の属性が複数あるってことじゃよ。得意な属性はあまり気にせんでも良い」
そう言い、エイスは大きなったキューブに触れた。キューブはそれを合図に元のサイズに戻った。
「カエデくんは……、すぐに元の世界に帰りたいか?」
「元の、世界にか……」
楓は元の世界に戻る、という事を言われるまで考えもいなかった。少しの沈黙の後、楓は口を開いた。
「……正直、帰りたいって気持ちはあんまり無いかな。前の世界で恋人もいないし、家族とはずっと前に疎遠だしな。まぁいつか帰れればいいかなーって感じかな」
「なるほどのぅ……」
エイスは大きく頷いた。あ、っと楓は何かを思い出した。
「この世界に来る前、追ってた光から匂いがしたんだ」
「匂い?」
「すごく懐かしい匂いだった……。あれは何だったんだろうか」
楓の疑問にエイスは何も答えない。楓はその沈黙は何も知らないと判断した。
「悪い、全然関係ない話だった」
「いいんじゃよ。ワシも変なことを聞いてすまなかった」
互いに詫びてから、楓は何となく自分の手を見た。自分に魔力があるということと、異世界に来たという現実を噛み締められるように強く拳を作った。
「メディ、早く降りて来なさい」
突然エイスがそう言うと、楓は反射的にログハウスの二階に目をやった。
「あっ、気づいてたんだ……」
ログハウスの二階に二つある窓の一つから、メディは二階から見つからないように、楓とエイスを見ていた。
メランジェリンク 徒花 結 @mitsuyoshi-takahiro
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