真夜中の創り手
鶴崎 和明(つるさき かずあき)
修羅場
この苦闘も残すところあと二回となったが、真夜中というのは何ともおあつらえ向きなテーマである。
それだけに余裕を持って挑めるだろうと高を括っていたのだが、どうやら見通しが甘かったらしい。
未明に作業を始めたのだが、寝てしまったがために仕事までの僅かな時間で仕上げるべく頭を回転させている。
それにしても私にとって真夜中はよく慣れ親しんだ時間であり、仕事の後に執筆をするとなるとこの時間を利用することが多くなる。
ただ、この時間内で上手く筆が進むことはまず少ない。
むしろ、考えあぐねて目覚めた時の方が効率よく進む。
こうした「書き手は真夜中に至るまで執筆をする」という私の印象はここ暫く変化しつつある。
故外山滋比古氏の名著「思考の整理学」の中でも、良い考えを生むのは朝であって真夜中は質の高い眠りを取る時間だという話がされていた。
確かに真夜中の街は私の楽園とばかりに飲み歩いていた頃よりも、それらが自粛させられている現況の方が朝の執筆は捗る。
刺激を抑えて朝に賭ける、そのために用意された時間が真夜中なのかもしれない。
度々登場する故池波正太郎氏は真夜中に執筆をするのだが、その前に夕食を摂って仮眠を取ってしまう。
そこから始める執筆であるため果たしてこれを真夜中の執筆としていいものかは疑問が残る。
むしろ、各種のエッセイから垣間見える氏の一日の過ごし方を見ると、真夜中の方が我々にとっての朝であるのではなかろうか。
やはり真夜中は私の時間と張り切るのはどうやら難しいらしい。
それでも、これが池波氏の公務員時代にさかのぼると話が変わってくる。
働き詰めた後の執筆であるため、仮眠を取ったとはいっても疲労の蓄積が大きいはずであり、これこそ真夜中の執筆と言うべきであろう。
その時の経験がいざというときの執筆体力に繋がっていたのだろうが、真夜中に書き進めるというのはそうした意味を持つのかもしれない。
となると、昨夜の私は少々怠けが過ぎていたということになるだろう。
それを反省しつつ、いよいよ最後のお題に向けて今宵は十分に脳を回転させたい。
少なくともこのような寝惚け眼で書くようなことがあっては失礼に当たるのだから。
真夜中の創り手 鶴崎 和明(つるさき かずあき) @Kazuaki_Tsuru
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