自主企画「SF考証手伝います!?」に参加いただきありがとうございました

※このコメントは、自主企画「SF考証手伝います!?」に関連したものです。
企画の都合上、作品を批評するような内容を含みますので、ご容赦ください。
なお、このコメントの末尾に、念のため、自主企画の企画内容をコピペしています。


<作品の感想>
まさか「おおきなかぶ」が、科学の光を浴びせられることになるとは思ってもみませんでした。作者様の発想力には、尊敬の念が堪えません。
敬意を表して、少しまじめに内容のレビューをしました。


<考証>
残念ながら、作中で書いている内容は、物理の問題としてとらえると間違っています。作中では、カブを引く力が、登場人物の体重の単純な合計で計算されていますが、これは正しくありません。

では、本当にまじめに「おおきなかぶ」を力学の問題として解こうとしたときには、何が必要なのか、考えてみます。

突然ですが、運動会の綱引きで、グラウンドの土が滑って踏ん張りがきかなくなったことはありませんか。
力学の問題として、自重を利用して何かを引き抜くことを考えると、この「踏ん張りがきかなくなる」現象を考える必要があります。
中学校や高校の物理で習ったかもしれませんが、この問題は、「摩擦」という概念を用います。そして、結論から言うと、土相手だと、だいたい自重の6割程度の力しか引っ張るために使うことはできません。
体重とは、人を地球が引っ張っている力のことです。(厳密には、地球が引っ張っている力は、体重に重力加速度をかけたものになります。)これは、言うまでもなく地面に対して垂直の方向に働いています。一方、カブを引っ張るときには、横方向に引っ張る必要があり、だいたい地面と平行の方向に力をかける必要があります。
その時、どの程度までの力をかけられるかは、滑り出す瞬間までは、「静止摩擦係数」として、一度滑り始めてしまってからは、「動摩擦係数」という数値で表現します。

カブは抜けておらず、引っ張っている人たちは動いていないので、体重×重力加速度×静止摩擦係数が、カブを引く力になります。この静止摩擦係数は、だいたい0.5-0.6程度を代表的な値として使います。

これが、最も単純な「おおきなかぶ」を考える力学です。

ところで、この問題は、かなり難しい問題です。というのも、童話の中では、「うんとこしょ、どっこいしょ」と、力をかけたり緩めたりを繰り返しています。
このような波状の力のかけ方は、カブの周りの土が、カブと固着している状態であれば、引き抜くときに有利に働きます。何度も揺らされていると、少しずつ隙間ができて抜けやすくなっていくのです。
スコップで土を掘り返すときに、てこの原理を使いつつ、何度か揺らすのと同じことです。この例の時も、少しずつ木の根が切れていったりして、何度かやるとうまく掘り返せるようになります。
このような何度も力がかかる上に力が変化するような問題を「動的な (Dynamic)」問題と表現し、実はいまだに盛んに研究が行われている領域です。

最後は少し脱線してしまいましたが、議論の不備をご指摘させていただきました。
なにかご不明な点やご指摘などあれば、返信いただければと思います。



※企画内容の再掲
自分で小説を書いてみて気が付いたのですが、科学をベースにしたまじめなSF(ハードSF)とかファンタジー(?)を書こうと思うと、
「この設定で、これぐらいの威力って正しいのか?」
「この計算、実は矛盾してない!?」
などなど、色々と悩むことがありました。
そこで、同じ悩みを抱えている方、このイベントに参加してください。
私のわかる分野であれば、考証の確認をします。
(査読付き学術論文の査読をご存じの方は、それをご想像ください。)
<受け付ける作品>
下記の分野のいずれかについて、設定を行い検討した作品
もしくは、検討が必要な作品
・物理学(古典物理学)
・数学(線形代数・応用解析・統計)
・信号解析

<補足と注意事項>
・もし特定の部分について注目して検討が必要な場合は、「近況ノート」にイベント参加の記事を作成し、検討が必要な場所をメモしてください。私が無事そのノートを見つけた場合は、そのノートにもコメントします。
・私の行った考察の結果は、作品の該当するエピソードにコメントする形で返します。
 場合によっては、間違いを指摘するコメントを行うことになりますので、ご承知おきください。
・私はよく間違いを犯しますので、コメントの結果を過信しすぎないようにしてください。ご不明な点は、コメントに返信する形でご質問ください。(一応学位を持っている者ですが、同僚との議論でよくミスを指摘されます)
・処理能力に限りがあるので、コメントが大きく遅れる場合があります。
 場合によっては、コメントをお返しできなくなる可能性もあるので、ご了承ください。(その場合も可能な限り、理由とともにその旨をコメントするようにします。)