歩きだした希求
いよいよ例のご飯の日がやって来た。
いまだに、行くのを躊躇う自分がいて…。
だって、こないだの偶然を見かけたばっかりにどんな顔したら良いか…。
時を戻せる能力あれば、使いたいよ。
あーだこーだと考えつつ、ぼーっと朝御飯を食べつつ携帯も眺めていた。
あっ、待ち合わせ場所の近くに行きたい店あったんだった。
その店に行くのを糧に、今日を乗り切るしかないよな…。
何とか行く理由を絞り出した私は、スッピンは失礼かなと普段あまりしない化粧をしてみてたりと準備に勤しんだ。
さー、そろそろ電車に乗る時間がやって来るよ。
私は電車に乗り、待ち合わせの駅まで向かった。
普段は遅刻しがちだけど、待ち合わせの5分前に着き緊張感漂わせながら目印の看板近くに佇んだ。
もうそろそろ時間がやって来るよ…。
あー、緊張する…。
そわそわ、そわそわ。
……。
「佐長さーん。」
私は声のする方に顔を向けた。
目の悪い私でも分かるように、イケメンのオーラが漂っている男性が目に入る。
あんなイケメンの横に並ぶのが、申し訳ないな…。
回りの人々に、不釣り合いと思われちゃうわ。
「お待たせしました。」
私の前に立った結斗さんは、ペコリとそう言い。
「さっき着いたので、全然待ってないですよ。」
まるでテンプレートのような返事をして。
「佐長さんは、お腹空いてます?」
「そうですね…、そろそろお昼食べれそうな、お腹の具合です。」
「そしたら、普通にご飯食べに行く感じで良いですか?」
「良いですよ。」
「気になる店があって…。この時間だと多分待ち時間少ないかと思うんですが、待ち時間あっても大丈夫です?」
「めちゃくちゃ、お腹空いてる訳じゃないので大丈夫ですよ。」
「良かった。案内しますね。」
私の返事を聞くと、結斗さんが足を進めたので着いていくことに。
「佐長さんは、この辺り来たりします?」
私のペースに合わせながら、一緒に歩いている結斗さんが私に話掛ける。
「買い物しに来たり、ランチしたりでよく来ますよ。」
「駅の裏手にあるお勧めのバーが在るんですが、ご存じじゃないですか?」
「お酒飲めないので、バーって所に縁がなくて行った事なくて。」
「お酒、全く呑めずですか?」
「胃が痛くなるし、冷や汗かいちゃうので呑めなくて。」
「そうなんですね…。でももし良かったら、バー体験してみませんか?ノンアルコールやソフトドリンクもありますし。」
まだ今日のミッションクリアしてないのに、いきなり次のミッションが…。
「えっと…、日が合えば。」
私の精一杯の答えがこれで。
「あっ、すみません。会って間もないのに、ぐいぐいし過ぎでした。知り合いがやってるお店で、知人が作ってくれるご飯が美味しいから佐長さんもどうかなって思っちゃって。」
バー体験に、美味しいご飯…。
好奇心旺盛な私には、引かれるワードか…。
「考えときます。」
気になるけど、又どう接したら良いのかの緊張感を持つかもと悩んで、絞り出したのが一般的な答えすぎた。
若干人付き合い苦手なのが出ちゃったよ。
そんな事を考えてたら、結斗さんの足が止まる。
「ここです。」
結斗さんが止まった場所には、白を基調としたおしゃれな外観のお店があった。
外に置いている看板に目をやると、パスタやグラタンなどの絵が良い感じに書かれていた。
店内は人で賑わっており、外に何組か待っている状況で。
「何か、テレビで見た気がする。」
「そうなんですよ。俺もテレビで見て気になって。なかなか暇がない上に、女性が多いから少し入りにくいなって思って。佐長さんを利用した訳じゃないので、誤解しないで下さいね。」
私の呟きに、いっぱい返事が来ちゃった。
「気にしないですよ。新たにお店開拓するの好きなので。」
「そう言って貰えて良かったです。まだ待ちそうなので外に置いてるメニュー、取ってきますね。」
「すみません。お願いします。」
結斗さんはそう言うと、看板近くにあるメニューを取りに行った。
何か、お互い気使いすぎてて変な感じだった。
緊張してるの、私だけじゃないんだな。
「はい、どうぞ。」
結斗さんが、私にメニューを差し出してきた。
「ありがとうございます。」
私はメニューを受け取り、しばらくにらめっこ状態で。
そんな私の顔を、結斗さんが微笑ましく見ていたなんて気づきもせず。
「ん…。パスタ食べたいけど、ドリアも食べたい…。どっちも大好きなチーズが乗ってるから、悩むしかない…。」
「良かったら、シェアしませんか?俺も両方食べたいですし。」
段々眉間に皺が寄る位に悩んでいた私に、結斗さんが提案する。
「良いんですか!?」
「良いですよ。せっかく二人で来てるんで。」
一人で行動することが多いし、シェアする機会少なかったからその考えはなかったな。
そもそも、自分から提案する事でも無いんだけどね。
「佐長さんが悩んでた、この二つで決めますね。ちなみに、このお店ドリンクバーとスープバーは勿論、ケーキバーってのもあるんですよ。」
結斗さんがメニューを指差しながら、教えてくれた。
「佐長さんのお腹に余裕がありそうなら、一緒にケーキバー頼みましょ。」
「気になるので、頼んで見ようかな。」
スイーツ好きな私は頼まないって選択は無しなくせして、ちょっと気取った返事してた。
「次に2名でお待ちの飛鳥様。準備できましたので、中に案内します。」
店員の声を聞き、注文の話題でちょっと会話が弾んでいた私達は待ち合いの席を立ち、店員の案内と共に中に入る。
『いらっしゃいませ。』
中に案内と同じくすれ違う店員達に、そう声をかけられる私達は「どうも。」とペコリしながら、案内された席に着いた。
「御注文はお決まりですか?」
「これとこれと、ドリンクバーとケーキバー2人分でお願いします。」
「かしこまりました。只今込み合っている時間帯ですので、ご利用は90分までとさせて頂いてます。ご了承下さい。ドリンクバーとケーキバーはあちらから、ご自由にお取りください。では、ごゆっくり。」
店員はそう言い、この場を後にした。
「佐長さん、先にどうぞ。」
「えっと、そしたら遠慮無く取りに行ってきます。」
結斗さんに促されて、先にドリンクとケーキを取りに行く事に。
「うわ…。ケーキどれも美味しそう。でもイチゴ嫌いだから、それ以外だとこのチーズケーキかチョコレートケーキか…。生クリームオンリーもあるから、これも食べれるな…。プリンにパンナコッタに、色々あるし…。」
こんな感じで、悩みに悩んだけど気になるのを一個ずつ取ったら皿いっぱいになってた。
しまった、これからご飯もくるし、初めてご飯食べる人と一緒なのにいつもの感じでやっちゃった。
…まっ、いっか。
そんなに、私に感心無いだろうし。
「お先でした。」
私はそう言い、席にケーキが沢山乗った皿をテーブルに置き席に着いた。
「美味しそうな、チョイスですね。俺も同じの選びそうです。行ってきますね。」
そう言い、結斗さんはケーキを取りに行った。
取りに行ったと思ったら結斗さんは、直ぐに選んで戻ってきた。
優柔不断の私からしたら、ものの数秒の出来事じゃないのかと思うばかりで。
こんな感じで驚いていたら、頼んでいたパスタとドリアが運ばれてきた。
その運ばれてきた料理に対して結斗さんは、あっという間に半分ずつ取り皿に分けてしまった。
「ごめんなさい!つい癖で取り分けちゃいましたが、覚めちゃうかもなんで早めに食べないとになっちゃいまして。」
「大丈夫ですよ。むしろ、取り分けありがとうございます。」
私は昔から取り分けって作業が苦手だから、逆にありがたかったんだよな。
世間一般的には、取り分け上手な女子は株が上がるんだろうけど…。
別に株上げたいとは思わないし、上げる理由もないけどね。
そんなこんな考えながら、パスタに手を伸ばした。
「あっ、美味しい。ドリアも食べてみよっと。…こっちも美味しい。」
食べてる時は幸せだわ。
こんな風にしばらく、美味しい美味しいとご飯が進むばかりであった。
「そう言えば、体調どうですか? 」
メインの料理を食べ終わり、ケーキに手を伸ばしだした時位に何か話をしないとと思い私は話しかけた。
「お陰さまで、すっかり元気になりました。あの時は、本当に助かりました。」
結斗さんは、そう言いながら軽く会釈する。
「いいえ、いいえ。良くなって、良かったです。」
「申し訳ない、ばかりで…。実は以前にも同じような事があって、助けて貰った事がありまして…。その時も配達中に倒れて、佐長さんのように親切な方に助けて貰って。こんな事を言うのも変ですが、懐かしく思い出したりしまして。」
「無理しないで下さいね。今度同じような状況で、私の配達残ってたら後回しにして貰って良いので。」
この言葉を聞いた結斗さんは、「ぷっ。」っと少し吹き出してしまった。
「佐長さんも、以前助けて貰った人と似たような事を言うんですね。何か、嬉しいです。」
呼吸を整えて、微笑みながら結斗さんはそう言った。
私みたいな、お節介がいたのね。
「なんか、懐かしいです。あの時はまだ仕事に慣れてなくて、無理しちゃって。こないだも、同じように無理した結果なんですが。」
「人間限界あるので、いかに無理せずに生きるのが大事ですよ。しんどくなるだけですからね。」
私は何でか諭すようにそう言ってた。
「あの人も、そんな事も言ってました。本当に、そっくりです。」
そんなに、似た感じの人がいただなんて珍しい。
私自身変わり者だから、似た人ってなかなか出会わないからな。
この時は、この程度にしか思わなかった。
後々、この時の言葉を思い出す事になるけど。
「お時間20分前で、ラストオーダーになりますが追加はありますか?」
店員がそう声をかけてきたため、「大丈夫です。」と返事した。
時間制限あること忘れていたため、慌てて取ってきていたケーキ達を口に頬張って。
それを、結斗さんが笑いながら見てた。
恥ずかしい姿見せちゃった。
勿体ないんだもん。
この後時間ギリギリまで食べて、店を出る事にした。
「この後は、予定ありますか?」
店を出たすぐに、結斗さんが声をかけてくる。
「ちょと先にある、雑貨屋さんに寄りたくて。」
「もし良ければ、お供させて貰っても良いですか?」
えっ…!
ここで、ばいばいかなと思って油断してた…。
付いてこないでとは言えないし…。
「退屈かもですが、結斗さんが良ければ。」
私は、こう答える以外思い付かなかった。
「是非とも、お供させてください。」
私は一人で行くのを諦めて、一緒に店に向かった。
目的地にたどり着いた私達は、そのまま店に入った。
そこには、アクセサリーなど日用雑貨が色々並べられていた。
「佐長さんは、何を買われるんですか?」
「かんざしが欲しいなと思ってまして。」
「かんざしって、着物着るとかですか?」
「着物は着ないんですが、普段使いでよくかんざし使ってまして。今度友人の結婚式あるので、新しいのが欲しいなって思って。青が好きなので、青系があればなと。」
私はそう話しながら、並べられたかんざしを眺めた。
青系があるんだけど、こっちの桜の形した赤いのがめっちゃ綺麗…。
予算無いから、一つしか無理なんだよな…。
「どれで悩んでるんですか?」
百面相するかの如しに悩んでいたんだろうな
と。
「この青いのが欲しいなって思ったんですが、この桜のも気になって…。」
そう言いながら、数分私は見比べて…。
「やっぱり、この青いのにしよ。桜のは又今度来てあったら、買うにしよ。」
誰に言うわけでもなく、自分に言い聞かせながら私は選んだかんざしを手に取り、レジに向かった。
又今度来た時に、残っていますようにと願いながら。
「後は寄る所ありますか?」
雑貨屋を出て、近くに見つけたケーキ屋に寄り道して気になるのを買いってその店を出た時にこう声をかけられた。
「いえ、後は特に無くて。」
「帰りは、電車ですか?」
「はい、電車で帰ります。」
「それなら、家まで送りますよ。」
「そんな、悪いですよ。」
「帰る方向一緒なので、送りますよ。車取ってくるので暑いから、あのコンビニで待っててください。」
何か返事しようとしたが、その間もなく結斗さんはさっき出た店の方に向かって歩いて行ったので、しかたなく近くにあったコンビニに入ることにした。
数分コンビニの商品をにらめっこしながら涼んでいたところに、「お待たせしました。」と結斗さんに声をかけられた。
「前に車止めているので、乗ってください。」
そのまま車に案内され、結斗さんは助手席の扉を開け私を誘導した。
やること素敵すぎないかい?
残りの人生、味わうことの無い出来事だっただろうなと…。
「どうしました?」
「いえっ。失礼します。」
私は声を上ずらせつつ、助手席に座った。
赤い車の外観に、黒い内観に所々赤いアクセントの縁でシートが目についた。
絶対、高い車だろうなと。
「座り心地は、いかがですか?」
「むっちゃ、いいです。」
キョロキョロしてかもと、慌てて答えた。
「良かった。では、そのままご自宅に向かいますね。」
結斗さんはそう言うと、私の自宅まで車を走らせた。
そうだ、家知ってるんだったなと改めて思うよ。
30分ほど車を走らせ、自宅に着いた。
「ここで、いいですか」
「大丈夫です!」
結斗さんに声かけられ、慌てて返事した。
だって、最初は他愛もない会話で繋いでたけど、段々と喋ること無くなってぼーっとしていて…。
そして返事してすぐ、扉を開けようとした時だった。
「あの、又こうやって会って貰えますか?もちろん、オススメのバーに行くのは約束しますし、他に行きたい所お供します。」
そうだった、バーに行く約束してたわ。
断れないよな…、今日楽しくなかった訳じゃないし…。
「分かりました。又空いてる日連絡します。今日はは楽しかったです。ご飯代も帰りも、ありがとうございました。」
私はそう言うと改めて扉を開け、車を降りると再度お礼を言った。
実は会計前に結斗さんがトイレに行く際に、そのまま会計終らせてしまってたのよね。
礼を言っても、言い尽くせないよ。
扉閉めた後、結斗さんは窓を開け「お休みなさい。又です。」と言い手を振った後、車を走らせていった。
車を見送った後部屋に入り、夜ご飯の準備もままならぬまま今日の出来事を噛み締めていた。
「長い一日だった…。貴重な体験をしたわ。」と 。
そんな時に結斗さんからメッセージが届き、『ありがとうございました。又お誘いします。』と。
そのメッセージに、『こちらこそ、ありがとうございました。』の返事の後に、近々空いている日を添えて返信し。
何度かやり取りをし、次に会う日を決めてしまったのよ。
遠くのあの人、愛してる はるさき @syunouka
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