見つめ直した稟性(ひんせい)
宅配のお兄さん騒動から、数日経った頃。
あの後結斗さんから連絡があり、何度かやり取りしていた。
近々ご飯に行こうと話が進み…。
携帯の文面でのやり取りだから良いけど、直接会ったら囁かれた事思い出しそうで気まずくなったらどうしよ…。
押しに弱いから、ご飯断れずに約束しちゃってもう既に動揺しちゃってるよ。
断る勇気が無いから、良いように扱われるのが私の悪いところなのに。
うーん、困った。
「せんぱーい。聞いてます?」
「ん?」
声がする方に振り向くと、後輩が呆れた顔してこっちを見てた。
あっ、仕事中だった。
「やっとで、振り向いてくれました。何度も呼んでたんですよ。同じ事をずっと記録してるし。」
「記録?」
そう言われ私はパソコンに目を向けると、同じ文章を誤字交えつつ何行も入力していた。
「うわ!確定前で良かった。」
私は慌てて、訂正する。
「もう、悩み事ですか?又、変な事に巻き込まれたりしてないです?」
うっ、鋭い…。
「えっと、今はまだ大丈夫。」
変な返答になっちゃったよ。
「うーん?怪しいですね…。」
明らかに、疑うような表情で後輩は私を見てくる。
えっと…ご飯行くだけだし、あんな行動はあったけど私に興味持つ事無いだろうし…。
「大丈夫なら信じます。でも、一人で考え込まないで下さいよ。仕事に支障出ても困りますからね。」
「分かった、ありがとう。」
何て良い娘で、何て現実的。
一回り位離れてる後輩にこんなに心配されるとは、もっとしっかりしないと。
「そうだ。先輩、今日の夜予定あります?久しぶりに、ご飯行きましょ。」
「夜は暇してるから、行けるよ。」
「良かった。積もる話があるので、速く仕事終わらせて行きましょね。」
「了解。じゃあ、頑張って記録終わらせるわ。」
私はそう言い、仕事を再開しだした。
何食べに行こうかな。
後輩と共に定時で上がれた為いつも定番で行く居酒屋じゃなくて、ちょっと職場から離れてるけど気になってたお洒落な居酒屋に行くことにした。
「こちらに案内します。」
開店直ぐに店に着いたから、直ぐに案内して貰えた。
黒を貴重とした店内で、案内されたテーブルは半個室になってて、ゆっくり話しできる環境だった。
「こちら、メニューになります。注文の際は、そちらのボタンを押して下さい。失礼致します。」
店員は一礼し、この場を後にする。
「さー、先輩。何にします?お酒飲んでも良いですか?」
「良いよー。えーと、何にしようかな…。」
私は一切お酒が飲めないので、メニューとにらめっこしだす。
やった、チーズ料理がいっぱいある。
デザートも食べたいから、程ほどに頼まないと。
ある程度にらめっこし、後輩と「あーでもない、こーでもない。」と言いながら、注文した。
「お疲れ様です。」
後輩の掛け声で、届いたドリンクをそれぞれ持ち乾杯する。
「んー、美味しい。先輩、何頼んだんでしたっけ?」
「クレナデンソーダー頼んだ。もちろん、ソフトドリンク。」
「美味しそう。お酒満足したら、私も頼も。」
後輩はそう言い、グビグビとビールを飲み出す。
「で、先輩に聞いて欲しいんですけど。彼氏がなんか浮気してるかもなんです。」
やっぱり、このての話ししだすよね。
「何か、疑う事でもあったの?」
「最近、忙しいって言って中々会ってくれなくて…。会っても、何かよそよそしいし。前は携帯の写真とかよく見せてくれたのに、今は見せてくれないし…。絶対、浮気ですよ。」
と後輩は喋ると、顔をテーブルに伏せながら泣き出した。
どうしてあげたら良いのやら…。
「でも、確定なんじゃないんでしょ?だったら、様子みてみたら?」
何とか絞り出した言葉を投げ掛けたら、それが火を着けたみたい。
この後から、あんな事やこんな事があったと喋りが止まらなくなって…。
「うん、うん。」と適当に相づち打ちながら聞いてたら、更なる飛び火がやってきた。
「先輩って、そもそも彼氏欲しいとか無いんですか?」
めんどくさい質問来たよ。
「だいぶんいい歳だから、一人が楽だなって思って。それに、私が良いって思う人なんていないよ。」
「そんなん、分からないじゃないですか!婚活しましょ。私も一緒に行きますから。もし、彼氏出きるような事あったら、絶対教えて下さいね。」
さっきまで泣いてた後輩は、嘘のような力強い目で私の手をがっしり握りしめた。
「……、考えとく。」
苦笑いしか出ないよ。
そもそも私、恋愛って感情が分からない。
初恋ってのも、多分無かったはず。
だから、恋ばなは昔から苦手だった。
恋愛偏差値無いから話す事が無いし、回りの感情が分からないし。
家族愛はあるけど、他人に対しての愛は理解できない。
芸能人や、好きなアニメや漫画にゲームキャラで格好いいと思う事はある。
けど、それだけの感情。
こないだの、耳囁き事件は慣れない事過ぎて動揺するばかりだった。
後輩みたいな可愛さが、少しでも自分にあったら又違ったのかな。
彼氏いても、色んな人から声かけられてるみたいだし。
そりゃこんだけ見た目も良けりゃ、人生違ったんだろうな。
でも、恋愛感情持てるかは別の話しだけど…。
「せんぱーい、トイレ行きたいです。」
いつの間にかお酒で出来上がってた後輩が、私に訴える。
「出て、直ぐ曲がった所にトイレあったよ。」
「えー。連れて行って下さいよ。転んじゃいます。」
「もー、めんどくさいな。じゃあ、そのままトイレ行ったら、帰るよ。」
「まだ、くでなでんそーだー飲んでないから帰りませーん。」
「どうせトイレで吐くんでしょ?それなら、味も分かんないだろうから又今度ね。」
「多分、吐きまーす。えー、くでなでん飲みたーい。」
「とりあえず、ここじゃダメだからトイレ行くよ。ほら、荷物持って。」
こんな感じでうだうだ言ってくる後輩に肩を貸して、何とか支えトイレに連れていく。
もちろん、帰る準備をして。
「ぎもぢわるい…。」
中々トイレから出てこず様子を見に行くと…ほら、やっぱりトイレで吐いてたよ。
「会計してくるから、座って待ってて。」
後輩は頷き、おとなしく近くあった椅子に座った。
私はそのまま会計を済ませ、後輩の元に戻った。
「ほら肩貸すから、帰って休むよ。」
普段なら今の所から歩ける距離に後輩の家があるのだか、転ぶ可能性が高すぎるのでタクシーの選択しかなく、近くにあったタクシー乗り場まで何とか歩く事に。
「せんぱーい、せんぱーい…。見てみて。あんな所にイケメン達が。」
それは、タクシー乗り場が見えて来たくらいの時だった。
後輩が指を差しきれてないけど、何とか上げている腕の指先を見ると確かに遠目でも分かるイケメンが二人何か話している様子だった。
「イケメンがいるの分かったから、恥ずかしいから腕下ろして。しっかり歩くよ。」
とりあえず、後輩が余計な事をしないようになるべく静かに過ぎ去ろうと少し足を進める。
数秒後『あれ?見た事ある人な気がする。』、そう思い私は、目を凝らしてイケメン達に気づかれないように歩き『あっ、結斗さんだ。』と確信する。
知人位な関係だし、酔っ払い連れてるから声を掛けずでしれっと通り過ぎようと計画した時だった。
結人さんがもう一人のイケメンに服を掴まれ、二人の距離が近づき、おそらく一方的にキスをしたんじゃないかと思える光景が目に入った。
咄嗟に結人さんは、相手のイケメンの顔にビンタをし怒って何処かに行ってしまい、その場にはもう一人のイケメンが佇んでいるだけとなり。
見てはいけないものを見た気がして、咄嗟に顔を向けると後輩と目が合い。
「せんぱい、BLですよ。」
酔ってたはずの後輩が目を輝かせ、小声で言ってくる。
『あー、BL好きな後輩だったわ。』と思い出し、見てたのバレないように少し足早にタクシー乗り場に向かった。
タクシーに無事乗り、車が出る頃には先ほどの場所にもう一人のイケメンはいなかった。
おそらくバレてないだろうと胸を撫で下ろし、タクシーで後輩の家に向かった。
「せんぱい、せんぱい。生BL初めて見ました。眼福です。」
後輩は気分悪かったのを忘れているかの如しに、ずっと先ほどの光景にテンション上がりまくってた。
もう、酔っ払ってるだけでもめんどくさいのに…。
10分も乗っていないタクシーが、後輩のせいで1時間位に感じてぐったりで。
ようやく後輩の家に着き、後輩を部屋に押し込んで私は退散する事にした。
おそらく、玄関で寝てる気がするけどそこはそっとしたままで。
自分の家まで直ぐ近いので歩きつつ、先ほどのイケメン達を思い出した。
何せ『今度会うのに、何か気まずい。』って思うから、余計に色々に考え。
もやもやしながら家に着き、疲れで気付いたら床で寝ちゃってて。
後日後輩と仕事で一緒になった時に、何度も謝られた。
居酒屋の事はあんまり覚えてないけど、イケメン達の事は何となく覚えてるみたい。
もうこの娘は、人生楽しそうで羨ましいよ。
さて、今度のご飯行くのに気合い入れないと。
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