結ばれた心緒

「うーん、ちょこちょこ目が覚めて寝れなかった。休みだから、寝溜めしたいのにー。」

普段仕事の時に目覚める時間になり、もう何度寝か分からない状況に諦め一旦背伸びをし動き出した。

目線を落とすと真っ先に、もう一人寝ている姿が目についた。

そうだ、一人泊まってるんだった。

にしてもやっぱり、綺麗な人だな…。

睫毛長いし、黒髪が艶やかで…。

一見筋肉なんて付いてないんじゃないかと思うくらい細いけど、宅配の仕事してるだけあって細マッチョな感じの身体つきだったよな…。

まじまじと見てたら、お兄さんが寝返りをうつ。

って、昨日の着替えを思い出してどうするよ!

自分見すぎだから、お兄さんに変人扱いされちゃうから!

「さー、朝御飯でも準備しよ。」

お兄さんに気付かれないよう、そそくさとキッチンに向かった。


うーん…、朝御飯食パン位しかなかったからチーズでも乗せて食べるかしら…。

卵あるから、ゆで卵でも作って。

後は確か、カップスープがあったはず…。

私がキッチンでガサゴソと食料を探していると、人の気配を感じた。

「おはようございます。あの…、色々すみませんでした。」

まだ体調が本調子じゃないのか、眠気残っているだけなのかぼっーとした感じの表情で、お兄さんが声をかけてきた。

何か、色っぽいわ。

「おはようございます。大丈夫ですか?」

「はい。お陰で、良くなりました。」

「それなら、良かった。パンとカップスープにゆで卵位しか無いですが、ご飯食べれそうです?」

「ご飯まで、頂いて良いんでしょうか…。」

「お気になさらずに。一人暮らし長すぎて、たまには誰かとご飯食べるのも良いかなと思って。大したもの準備できないですが、適当に座って下さい。」

スペースを取ってた簡易ベッドの布団そのまま畳み、端に移動させ、お兄さんにソファーを勧めた。

「ほんと、すみません。」

お兄さんは凄く申し訳無さそうに、ソファーに腰かけた。

さて、出来上がったかなとキッチンに向かう。


「どうぞ。」

と、出来上がった食事をテーブルに置く。

「ありがとうございます。」

お兄さんはそう答えつつ、何かをボーッと見ていた。

目線を辿ると、飾ってた写真にたどり着く。

「家族さんの写真ですか?」

「そうなんですよ。3年位前に弟のところに子供が産まれて。お宮参りの時に両方の親兄弟で日にち合わせて、記念に撮った写真で。産まれたの男の子で、可愛くて。」

甥っ子ラブだから私今、絶対顔緩んでるよな。

「そんなに可愛いんですね。よく会いに行ったりするんですか?」

「電車乗ったりで1時間以上かかって、直ぐに会いに行けないんで、誕生日とかクリスマスに学校行事とかで行ける時にプレゼントと言う名の貢ぎ物持って、会いに行ったりしてて。」

「貢ぎ物って表現が、斬新ですね。」

少し笑って、そう続ける。

「独身まっしぐらのもういい歳なので、老後の何かあった時の為の連絡先だけでいいから、お願いしたいなって思って。その先行投資で。」

「先行投資って…。そう考えれるって、家族が仲良い証拠ですね。羨ましいです。」

先行投資に一瞬笑ったかと思ったら直ぐに寂しそうな顔で、お兄さんが答えた。

えっと、どうしよ…。

あれかな…家庭環境厳しかったとか、カミングアウト的な事で仲が拗れてるとか…。

「えっと…。とりあえず、スープ覚めちゃうしご飯食べません?」

私はその場を取り繕うように、ご飯を勧めた。

「そうですね。…頂きます。」

お兄さんは手を合わせながらそう言うと、食べ始めた。

良かった、多分セーフ。


「ご馳走さまでした。」

「いえいえ、大したおもてなしできずで。お皿とかそのままで良いので。コーヒーか紅茶かお茶入れましょうか?アイスでもホットでもお好みで入れますよ。」

「目を覚ましたいので、アイスコーヒーブラックでお願いします。」

ご飯を食べ終えた私達は、私は紅茶でお兄さんはコーヒーで一息ついてた。


『ピンポーン。』

インターフォンがなり、モニターに近づいた。

『おはようございます。すみません、結斗が迷惑かけまして。』

モニター越しの男性が一礼しながら、そう話す。

「おはようございます。大丈夫です。とりあえず、鍵開けますね。」

私が鍵を開け扉を開くと、スーツ姿をピシッと決めたスラッとした男性が立っていた。

モニター越しでも男前だなと思っていたけど、実際に対面するとモデルをしてそうな綺麗な顔立ちをしていた。

顔は知ってたけど、やっぱりイケオジだわ。

美形家系なのね…、羨ましい…。

「とりあえず、どうぞ中へ。」

まじまじ顔を見てしまいそうになり、慌てて部屋の中に案内する。


「すみません、迷惑かけて。」

洗い物をしていたお兄さんは手を止め、オーナーさんの方を向き伏し目がちでそう言う。

洗い物置いといてくれて良かったのに。

「もう体は大丈夫なのか?又無理をして…。佐長さん、本当に迷惑掛けました。申し訳ないです。結斗を助けて貰って、ありがとうございました。大した物では無いですが。」

お兄さんに話終えたオーナーさんが、私の方を向きながらそう言い手土産を差し出す。

「そんな、気を使っていただいて。お気持ちだけで。十分なお礼頂けるので。」

「貰って下さい。知り合いの店にお願いして、作って貰ったので。」

店頭分じゃなくて、オーダーメイドだなんて…。

そもそも、昨日のやり取りから数時間しか経ってないのに…。

お金ある人の発想なんだろうが…、断れないやつだわ。

私は断るのを諦め、手土産を頂いた。

「開けてみても良いですか?」

最初断りながらも、実は中が気になっていた私は余計に開けたくなって、とっさに声が出た。

品が無いのが、ばれちゃったよ。

「どうぞ。」

微笑みながらオーナーさんが手を差しのべたのを見て、一旦手土産をテーブルに置き箱を開けた。

んー…、ひゃあー…、可愛い…。

中が一瞬見えただけでも可愛いのが分かった。

箱を開けてしまうとそこには、一人分より大きめのケーキが入っていた。

そのケーキには、SNSで映えそうな大きな黄色いリボンが飾られていた。

写真撮りたい…、食べるの勿体ない。

目がキラついていたのか、それを見ていたオーナーさんはちょっと吹き出していた。

「そんなに喜んで貰えるなら、持ってきて良かったです。又持ってきます。」

笑顔で答えるオーナーさんに、ちょっと恥ずかしくなった。

人からこんな素敵な贈り物貰ったこと無いから、顔に出ちゃってるよ…。

恥ずかしい…。

ちょっと、もじもじしちゃったよ。


「さあ、結斗。帰ろうか。」

「うん。」

オーナーさんの声掛けに、服を着替えたお兄さんがそう答える。

「もう少し、ゆっくりされて良いですよ。お茶も出せてないので。」

私は慌てて急須に手を伸ばした。

「迎えに来ただけなので、お気持ちだけ頂きます。結斗、荷物はこれで良いかい?先に車乗ってるから、ちゃんとお礼言って降りてくるように。佐長さん、ありがとうございました。」

私に一礼をしたオーナーさんがお兄さんの代わりに荷物を持ち、玄関に向かう。

「分かった。」

置いていた携帯電話を取りに行き、お兄さんも玄関に向かうのかと思ったら立ち止まる。

「あの…。今度お礼をしたいので、連絡しても良いですか?」

「ん?…あー、良いですよ。」

とっさの事にちょっとびっくりしながら、私は返事もした。

「これ、俺の連絡先です。佐長さんの電話番号は、荷物の連絡先ので良いですか?」

そう言いながら、お兄さんは携帯電話のプロフィール画面を差し出す。

「良いですよ。えっと、お兄さんの名前の漢字教えて貰えたら。」

こんな会話を繰り広げながら、私は電話を登録した。


「本当に、お世話になりました。又改めてお礼の電話させてください。」

部屋を出たお兄さんは、一礼しながらそう言う。

「お兄さんも、無理しないでくださいね。良かったら、水分補給にこれ持って帰ってください。」

私は、ペットボトルのミネラルウォーターを差し出した。

「ありがとうございます。そうだ…。」

え…?

「俺の事は、結斗って名前で呼んで。」

え………。

えー、何で何で。

私は耳元でそう言われてびっくりして、腰抜かしそうで慌てて壁にもたれて、パニックになってた。

「では、また。」

動揺している私を跡目に、玄関の扉が閉じた。

私はわけわからずに心臓ばくばくで、しばらく動けずに固まってた。

もー、こんな事慣れてないのに…。

何なのよ…。


「やっとで来た。乗って。」

オーナーに促された結斗は、車に乗る。

「何かあったか?」

「うーん?連絡先交換してただけ。」

「珍しいな。女性の連絡先を聞くなんて。」

「お礼したいから。」

「そうか。まー、少しでも女性もとい佐長さんが気になるようなら、アドバイスするよ。」

「…、もしその時が来たらね。」

二人は淡々と話ながら、家路を辿る。


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