錆びついてた歯車

『ピンポーン。』

ある日の夜、部屋にインターフォンの音が鳴り響く。

「はーい。」

私はインターフォンに駆け寄り、返事をする。

「さながさん宅で合ってますか?」

宅配のお兄さんが返答する。

「えっと、佐長(さなか)ですが合ってますよ。」

よく間違えられるんだよな。

「ロック開けますね。」

私はそう言いながらオートロックを外す。

「部屋に向かいますね。」

お兄さんがそう返事をして数分後、再度部屋のインターフォンが鳴る。


「はーい。開けますね。」

この時私は、頼んでいた財布が届くのが楽しみでウキウキしかなかった。

しかし、この後予想もしていなかった出来事に気が動転するしかなかった。


私が玄関を開けるとそこにはもちろん、宅配のお兄さんがいた。

その人は黒髪の綺麗なイケメンさんで、まじまじ見そうになって…。

しかも急いで来てくれたのか、少し息が上がってるのに色気を感じてしまい。

「えっと、『さなかかがり』さんで合ってますかね?合ってましたら、サインか印鑑をこちらにお願いします。」

そんな邪な事を一瞬考えてた私の思考を元に戻すように、お兄さんが声をかけてくれて。

「サインでお願いします。」

私はサインをし、荷物を受け取ろうとしたが…。

「うっ。」

それと同時にお兄さんの体勢が崩れ、私に覆い被さるような体勢となり。

「ちょっと。お兄さん、どうしたんですか!!」

そう言いながら私は必死に身をよじって、座る体勢に何とか整える。

お兄さんに膝枕している体勢だけど、さっきよりましだろう。


「大丈夫ですか!!」

倒れたお兄さんは、息が速くなっており全身に汗をかいていた。

さっきのは、急いで来たんじゃなくて体調悪かったのね。

「とりあえず、このままじゃどうにもできないし。」

って気合いを入れて、お兄さんの脇を抱えるように必死に少しずつ引っ張り部屋に横たわらせた。

「今日も猛暑だったから、熱中症にでもなったんじゃないかな。」

と私はぶつぶつ呟きながら、お兄さんを引きずった跡に残った汗を見る。


「とりあえず、このままじゃ風邪引くし着替えさせないと…。確か、あいつの置いてた服があったよな。後、スポーツドリンクも買ってたはず。」

私は男物の服があったを思いだし、 それとタオルとスポーツドリンクを取りに行き、お兄さんに声をかける。

「大丈夫です?これ、頑張って飲んでください。」

お兄さんが僅かに頷きたの確認し、私は又お兄さんを膝枕しスポーツドリンクのペットボトルを開け口につける。

「良かった。飲めた。」

少しずつ溢しながらも飲むのを確認し、私は少し安堵した。

更に、お兄さんが飲めるだけスポーツドリンクを飲んで貰った。

後は、着替えないと。

これが又、難題だよね。


「着替え…自分で無理ですよね?」

私がそう言うと、お兄さんは頑張って服のボタンを外そうとするが力入らずで。

「ん~、嫌だと思うけど、私が着替えちゃいますね。」

私は腹をくくり、上半身の服を脱がしタオルで体を拭いて持ってきた服を着せる。

さてズボンも脱がせないとだけど、下着は無理だからこの上からタオル巻くでも良いかしら…。

多分、タオルが汗吸ってくれると信じて。

そんな事を考えながら、意外と手際よく着替えを済ませていく。

病院勤めだから、できちゃう自分に改めてびっくりよ。

さて、この後どうしたものか…。




何か意識が朦朧としてる。

無理しちゃったな。

前にもあったよな、こんな事。

『大丈夫か?これ飲めるか?』

懐かしいな、あの人が倒れた俺を必死な形相で介抱してくれて。

遠い記憶の彼方に置いてきたいのに、やっぱり思い出す。

辛いな。

しかも、何か懐かしい感じもするし余計に…。




「うっ…。つる。」

ちょっと落ち着いたお兄さんが体を起こそうとすると、足にこむら返りが起こり悶えだし。

「ちょっと、足ごめんなさい。足の裏押すんで。」

私はお兄さんの両足裏に手を当て、そのままグッと押さえる。

「しばらくすると、良くなるはずなので。」

そのまま数分足を押さえると段々と良くなったのか、苦悶が薄らいできた。

良かった…。

「もう少し、水分取れますか?」

私はそう言い、在庫切れたスポーツドリンクの代わりにコップに入れた水を差し出す。

「ありがとう、ございます。」

それをそのまま、お兄さんは飲み干す。

「あの…。トイレを借りて良いですか?」

「良いですよ。」

私はそう返事し、何とか立ち上がり歩きだしにくそうなお兄さんに肩を貸しトイレに案内する。

トイレ行けたし、これで一旦一安心かな。

さて次は、誰か迎えに来る人がいるのかしら。


さすがに直ぐ一人で帰れと言うのは良心が痛み、お兄さんがトイレ言っている間にお客さん用の簡易ベッド広げ寝床用意して…。

しんどいだろうから、横になって貰って連絡先聞いたら良いかしら…。

『ガチャ。』

トイレの扉が開いたから、私は駆け寄り簡易ベッドに誘導する。

「とりあえず、横になって下さい。」

お兄さんは「大丈夫です。」って何度も拒否ってきたが、ふらふらな隙をついて無理やり押し倒す体勢になったが寝かしつけた。

まだ息が上がり気味のお兄さん見て、何かとんでもなく悪いことしてる気分になっちゃったけど…。

嫌々…、仕方ないことよ。

よし、話を進めよう。

「会社に連絡するでいいです?」

私は不在票があったことを思いだし、それを見せながら確認する。

「会社で良いんですが、その番号営業時間内しか繋がらないかもで…。」

「とりあえず、かけてみますね。」

とは言ったものの、やっぱり繋がらない。

そうだよね…、荷物の不在受け取りを最終の夜に指定したから、とっくに仕事終わってるよね。

「他に、連絡ついて迎えに来てくれる家族さんとか、友達とかはいません?携帯あります?」

「家族は遠方なので…。地元じゃないので、そこまで親密な友達とかいなくて…。携帯車に置いて来ちゃいまして。」

えーと、手札詰まったよ…。

うーん。

私頭良くないから、こういう時困るよな…。

誰か私の方で頼れる人は…。

私も友達少ないしな…。

………。

あっそうだ、多分まだ管理人さんがまだいると思う。

「とりあえず、車もそのまま置いとけないと思うので、管理人さんに声かけてきます。次いでに携帯取ってくるので、車の鍵貸してください。」

「ズボンのポケットに、鍵入ってます。」

「後、名前聞かれるかもなので教えて下さい。」

「飛鳥結斗(あすかゆいと)です。」

「飛鳥結斗さんですね。了解です。ちょっと行ってきます。寝てて貰って良いですよ。」

私はそう言い、部屋を出た。


「管理人さん。いますか?」

私は管理人室をノックし、部屋の主を尋ねた。

「んー?ちょうど帰ろうとしたところだよ。どうした?」

返事と同時に扉が空く。

「管理人さん。大変です。宅配のお兄さんが、倒れてうちで看てるんですがどうしたら良いんでしょ。」

私は事の経緯を、管理人さんに話しした。

「ちなみに、そのお兄ちゃんの名前聞いても良い?出入りしてる業者だったら、知り合いかもだし。」

「飛鳥結斗さんです。」

「あすかゆいとね……。あー、その子なら知ってるわー。ここのオーナーの親戚だわ。ちょっとまっててよ、確か連絡先がここにあったはず。」

管理人さんは、携帯から連絡先を探しだし直ぐ電話をかけてくれた。

オーナーさんの親戚だったのね。

教えてくれたら良かったのに…。

まー親戚は頼りにくいかな…。


「うん、うん。分かった、ダメ元で聞いてみるわ。私有地内に車止まってるから、車はそのまま置いとくから。」

数分間の電話のやり取りを見届け、結論を確認した。

親戚のオーナーさんも直ぐ迎えにこれる所にいないから早くても明日朝になり、一晩泊めて貰えないかと。

管理人さんも、奥さんが体調悪くて帰らないと行けないみたいで。

ふんふん…。

…って、いやいや若者とは言い難い歳だし見映えが良い方じゃないけど、一応私も女ですが…。

ここまで介抱して言うのもですが、見知らぬ異性が同じ部屋にはちょっと…。

「どうかな?」

管理人さんが聞いてくる。

「さすがに、無理ですよ。病人だとしても、異性ですし。」

「えっと、その点は多分大丈夫だと思う。オーナーから聞いたけど、異性に興味ないらしいから。」

え?

…あー、そっちの人か…。

「そうだとしても、何もない保障は無いじゃないですか。」

「保障無いけど、オーナーから来月の家賃無しとかじゃあ無理かなってくれてるんだけどな。万が一何かあれば、責任は取るって言ってる。」

家賃免除か…。

来月あの支払いにこの支払いに、色々あったよな…。

家賃浮いたら、楽だよな…。

うーん、うーん…。

「どうかな?念のために隣の部屋の子にも言っとくから、何かあったら入れて貰えるように段取りするし。」

そんなに頼まれたら、断りきれないよ。

元々断れないタイプだし…。

「分かりました。オーナーさんに、一秒でも早く迎えに来て貰えるように言っといて下さいね。」

諦め顔で、管理人さんに返事した。

「ありがとう。」

管理人さんとは、そこで別れた。

そのまま、お兄さんの携帯を車に取りに行き部屋に戻ることにした。


部屋に戻ると、うとうとしながらも必死に起きてようと簡易ベッドに座っているお兄さんがいた。

「寝てて貰って良かったのに。携帯取ってきましたよ。」

そう言いながら、私はお兄さんに携帯を手渡す。

「ありがとうございます。…不在着信いっぱい入ってました。」

でしょうね…。

と言ってたら、着信が…。

「もしもし…。」

『飛鳥、大丈夫か!…繋がって良かった。戻ってこないし、電話出ないし、事故にでも巻き込まれてないかと心配したんだからな。さっき親御さんから返事あって、親戚の人が状況確認出来たから無事だって聞いたから。倒れる前に連絡しろよ。車は朝取りに行くから、今日はそこでお世話になって。ゆっくり休むように。じゃあ、何かあったら連絡しろよ。』

「はい、すみません。気を付けます。迷惑かけました。」

お兄さんはおそらく仕事の先輩だろう人と手短に会話を済ませ、電話をおろし私の方を伏し目がちに向いた。

「佐長さん、すみません。助けて頂いて。」

「良いですよ。気にしないで下さい。困った時は、お互い様で。とにかく、横なって休んでください。」

「あの…先輩も言ってたんですが、俺は今日佐長さん宅にお世話になっても良いんでしょうか?」

「お兄さんの、親戚のオーナーさんからお願いされたのでそのつもりです。私も若くないし大丈夫だと思いますが、一応変な気は起こさないで下さいね。」

「大丈夫です。異性には興味ないので。……。」

と、即答だったよ。

でもこの時私は、ポツリと呟いた一言を聞き逃してしまっていた。

それが、これからの出来事に繋がる始まりだっとは気付かずに。


そんなこんなでお兄さんが寝たのを確認し、疲れきった私は眠りについた…。

そう言えば、救急車とかで受診させるって発想今出てきたよ。

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