ウチには猫がいる

玄栖佳純

第1話 猫の手を借りた結果

 僕は異世界にいる。

 ある日、目覚めると現実世界リアルとはまったく違う場所にいた。


 僕は畳に布団派なのに、木のベッド。パッチワークのベッドカバーなんかがかかっていた。僕にあてがわれた家は三匹の子豚の末弟が作ったような丸太の家だった。意外としっかりできていて、暖炉とかもあってなかなかいい。


 ろうそくやランプの明かりも悪くない。

 飛ばされた直後は家の探検とかしてなかなか楽しかった。


 しかし、家事は自分でしなければならない。

 これがけっこう大変だった。


 食事は、はじめのうちは置いてあった在庫があった。

 でも、みるみるなくなっていく。


 暖炉は薪をくべなければ火が消えてしまう。

 暖炉がないと寒くなる。


 暖炉の近くに置いてあった薪が全部使ってしまったので、薪はないかと外に出る。

「寒い……」


 家の外は緑はあるけど人家がない。

 大草原にぽつんと一軒家。


「どこなんだろう、ここ……」

 ひとり言のように言う。というか一人しかいないからひとり言だ。


「みゃん」

 足元から鳴き声がした。


「タマ」

 リアルで飼っていた仔ネコのタマだけが僕の話し相手。タマは僕と一緒に飛ばされた。


「みや」

 タマがそう言って歩く。


 まるで『ついておいで』と言っているかのようだ。

 タマについていくと、家の外壁にたくさん積んである薪置き場に来た。


「ありがとう、タマ。教えてくれたんだね」

「にゃん」

 タマは嬉しそうに僕の肩に乗る。


 リアルにいたときもタマは僕の肩に乗っていた。肩に乗って、ぐるりと首の周りで寝る。


「温かい……」

 寒い異世界で、唯一のぬくもりだった。


 それから僕は暖炉で燃やせそうな薪の準備することにした。小さな薪はそのまま持って行ったけど、大きい薪は近くにあった切り株に乗せ、『これで割れ』と言わんばかりに置いてあった斧で割る。


 僕が薪割りを始めるようだと感じると、タマは肩から降りて僕の薪割りをお行儀よく座って見ていた。


「痛たた」

 はじめは慣れなくて変なところを割っていたけれど、慣れてくるとパカっと割れるようになった。


「ふう」

 ある程度薪が準備できると、それを持って家に入る。

 タマもすぐに僕の肩に乗る。


 タマと薪は重い。

 でも、タマをどかす気にはならなかった。


 僕が薪を持っていると、タマは上手にバランスを取って僕の肩に乗っている。

 リアルでもタマは上手に乗っていた。


 家に入ると暖炉に行き薪をくべる。

 火の調節をして食事の準備。


 パンを暖炉の火であぶってそれを食べる。

 タマ用のキャットフードはないからタマにもパンをあげる。


「おいしいかい?」

 タマは返事もせずに食べる。


 それからベッドを整えたり掃除をしたりと家中を整える。

 異世界にいるのに、冒険をする暇などない。


「これが、猫の手も借りたいってヤツなのかな?」

 自分の生活ができるようにとするだけで、忙しくて目が回る。


「お母さん……」

 呼んでみたけど母は現実世界の純和風の家にいるだろう。


 猫の手だろうと借りたい。

 この状態から抜け出したい。


「にゃん」

 タマの声がした。


『貸してあげましょうか』

 そんな言葉が聞こえたような気がした。


「タマ?」

 足元にいる白い猫。

 目が合うと、タマが微笑んだような気がした。


「うわわっ」

 僕の手が猫の手になっていた。


「えっ? えっ? えっ?」

 肉球のついている白い猫の手。


 その手で自分の頬を触るとふわふわだった。

 タマのピンクの肉球。


「気持ちいい……」

 しばらく手のふわふわ感を楽しんでいたけれど、ふと気づいたことがある。


 頬から手を離し「ふん」と気合を入れると、シャキンと爪が出てきた。

「おお~」思わず声が出た。


 一度できると気合など使わずに爪の出し入れができた。

 これは武器になるのではないか。


 そして猫がハンターであることを思い出す。


「タマ、ご飯を狩ってくるからね」

 僕は大草原へ行き、小動物を狩ることにした。


「にゃん」

 タマはボクの肩に乗り『後で返してね』と言った。


 外はまだ冬。昼は太陽が出て温かいけれど、夕方になると冷えてくる。

 僕の手足は猫になり、僕はそこでハンターになった。 


 足音はしないしその爪は武器になる。

 いつかタマに返す日がくるかもしれない。


 でも、僕はふと気づいた。

 僕の手になっているタマの手は、タマの前足なんじゃないか?

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ウチには猫がいる 玄栖佳純 @casumi_cross

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