瞬く間
結騎 了
#365日ショートショート 083
山札から特定の一枚を引き抜く。ぺらり、と見せかけて、すっ。まるで一番上の一枚をめくるような動作で、その5枚下にあるカードを抜き取る。もちろん、何枚目にどのカードがあるかは把握している。山札は全部で40枚。これくらいなら
男は、近所のカードショップへ来ていた。ここで行われるのは、世界的トレーディングカードゲーム『マジック&キャサリン』、その全国大会の予選である。
マジシャンの夢に破れた男は、ある日、カードゲームと出会った。インターネットで見つけたのは、優勝トロフィーを掲げるアジア人の男性。『マジック&キャサリン』世界大会の優勝者で、優勝賞金は信じられない額だった。
……俺なら出来る。男がその発想に至るまで、時間はかからなかった。その道では成功できなかったとはいえ、マジシャンの端くれなのだ。カードを記憶し、操作するなんて、難しいことではない。対戦相手が自身の手札を見る一瞬。場のカードを確認する一瞬。残りのポイントを計算する一瞬。その瞬く間に、華麗にカードをすり替えて見せよう。俺の手札は常に理想型、負けるはずがない。
一回戦。目の前の椅子に座ったのは、いかにもオタク然とした寡黙な青年だった。じっ、と見ても一向に目が合わない。
「では、スタート!初めてください」
アナウンスが響く。さあ、ステージの始まりだ。
先攻は青年。男の手札は、有効なものが半分ほど。残り半分は、次の自分のドローで調整するとしよう。
「まず、効力によりこれを破壊します。続いてこれも同様の処理です。さらに、山札から……」
青年はひとりでぶつぶつと呟きながら、いくつかの動作を繰り返した。場に出したカードの効力で山札を参照し、また新たなカードを場に出す。手札を捨て、カードの向きを変え、その動きが止まらない。
「あ、あの……」
「なんでしょう。まだ私のターンですが。……えっと…… はい、やっと全てそろいました。場のカードをこの効力により一度に破壊。効力が複数同時に発動されます。つまり、あなたのポイントはぴったり0のはずです」
それは、瞬く間の出来事だった。
瞬く間 結騎 了 @slinky_dog_s11
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