「皆様に聞いてほしい事があるんです。はっしゅたぐ拡散希望」

青羽真

「皆様に聞いてほしい事があるんです。はっしゅたぐ拡散希望」

 私はたった今、「つぶやいたー」とかいうサイトの「あかうんと」なる物を作成しました。ここまで辿り着くのに、かれこれ三時間はかかってしまいました。今日に限っては、もう少し最新の技術に触れておけばよかったと思います。一応、パーソナルコンピュータは持っているし使ったこともあるのですが、今まで家族とのやり取りに使うくらいで、エスエヌエスとかいう物は今日初めて使うのです。


 そんな機械音痴な私が、あかうんとを作ったのには理由があります。どうしても、多くの人に伝えたい思いがあったからです。とはいえ、本を執筆するほど体力は残っていません。そう言う訳で、気軽に情報を発信できる「つぶやいたー」を使う事にしたのです。


 雑誌で見た情報によると、ここに自分の意見を書くと、多くの人が見てくれるそうです。真偽は定かではないですが、ひとまず行動してみようと思います。また、その雑誌によると、「はっしゅたぐ拡散希望」とすることで、より多くの人に注目されるそうです。よく分からないですが、取り敢えず実践してみようと思います。


 それと、この「つぶやいたー」では一度に140文字しか添付できないらしく、それ以上の長文は別の方法で書き、写真として添付する必要があるらしいです。ですので、今このように筆を取って紙に文字を書いています。




 前置きが長くなってしまいましたが、ここから本題に入らせて頂こうと思います。



 「緩和ケア」という言葉を皆様は聞いたことがあるでしょうか?これは、命に係わる病気を患っている患者に対して行われる医療の事で、主に肉体的な苦痛や精神的な苦痛を和らげるために行われます。

 似た概念に「終末期しゅうまっき医療」という物もあります。これは、余命僅かな患者に対して、残された時間を平穏に過ごせるように苦痛を和らげる医療のことです。

 緩和ケアは発病の早期から始まりますが、終末期医療は重症化した後から始まる。そんな感じの理解で大丈夫だと思います。


 何故えて私がその違いを説明したのかというと、私が受けた物が「緩和ケア」の方であり、私にはまだ治る可能性がわずかですが残っているとご理解して頂きたかったからです。



 事の発端は2週間前でした。私を担当している先生が「心のケア」たるものを受けてみないかと持ち掛けてきました。これは緩和ケアの一環で、現状の不満や将来に対する不安を専門の医療従事者に話す機会だそうです。つまり、精神的な苦痛を和らげるための医療という訳ですね。

 当時、自分が受ける事になる治療の効果やその副作用について詳しく教えてほしいと思っていた私は、お願いする事にしました。


 二日前、初めての「心のケア」を受けました。担当してくれたのは、心のケアを専門にしている人だそうで、宗教関係者でもあるそうです。

 この時点で少し違和感を感じました。

 さて。他の人に聞かれないようにと個室へ赴きました。なるほど、個人情報流出が起きないようにとの配慮でしょう。そして、いよいよ、お話する時間になりました。


 私は自分の受けている医療について尋ねました。一語一句は覚えていませんが「抗がん剤の副作用がひどく、このままでは抗がん剤に殺されそうだ。本当にこんな薬でよくなるのでしょうか」のように言ったと思います。

 すると、担当の人は「そうですよね。そのお気持ち、本当によく分かります。実は私も以前白血病になり、抗がん剤治療を受けた事があります。その時は辛く、『いっそ死んだほうが楽なのでは』なんて思いましたが、その甲斐あって、今は完全に治りました。お辛いとは思いますが、確実に効果はあります。頑張ってください」とおっしゃりました。


 なるほど。そういえば、テレビの特集で白血病はガンの中でも寛解かんかい(≒治癒)しやすいと聞いたことがあります。

 しかし、私が聞きたいのはあなたが治った話ではないのです。私が聞きたいのは、私の治療に関してなのです。


 詳しくは忘れましたが、その後も色々と質問をして分かった事は、この人は私の治療については何も知らないという事でした。この人は「ガン治療専門の医療従事者」ではなく「心のケア専門の医療従事者」だったのです。


 その事実に愕然としつつも、「心のケア」はまだ続いています。私は担当の人から色々と話を聞かされます。


 担当の人は「前向きに生きる事が大事。先を恐れて不安を抱えて余生を過ごすのはもったいない」とまるで私がもうすぐ死ぬ人間であるかのように話したり、「心を強く持つことで、身体は健康になる」と嘘か本当か分からないような事を言ったりしました。



 もう一度言いますが、私が受けているのは「緩和ケア」の方であり、私にはまだ治る可能性がわずかですが残っているのです。

 だから、私としては「抗がん剤はこういう原理であなたのガン細胞を破壊しており、副作用はあるものの、ちゃんと効果はあります」とか「最近ではこういう新薬も出ており、治る可能性は十分あります」のような話を聞きたかったのです。

 「残り僅かな時間を有意義に過ごしましょう」のような話をされると、本当に嫌な気分になります。


 ここで私と同じ病に侵されている人がそのような話をしているなら、まだ許せます。しかし、健常者にこのような話をされると、正直「私達患者を見下しているのか」と感じます。



 この気持ちに共感して頂くために、今の私の気持ちを、別の事柄に置き換えて説明したいと思います。


 あなたは今、大学受験を三日後に控えています。現役合格してやろうと勉強にいそしんでいます。

 そんな中、あなたは「今更こんな風に勉強しても意味があるのか?」と弱音をきました。それを聞いた、中学生の弟(妹)に「失敗しても、それが次に繋がるんだぞ!」と言われ、その上、自分の話を自慢げに話しだしたらどう思うでしょうか?

 嫌な気分になりませんか?「あなたに私の苦悩が分かるはずないでしょ!」って言いたくなりませんか?「さも私が失敗するかのような言い方をしないでくれ!」って思いませんか。

 同級生で、自分よりも苦労している人に言われたら、まだ許せるでしょう。ですが、今の自分の気持ちを理解できるはずもない人に言われたら腹が立つでしょう。



 このように例えると、少しは私の気持ちがご理解いただけるのではないでしょうか?



 さて、心のケアの厄介な点はまだあります。ある意味、今回の件よりも嫌なことです。

 それが、『自分が傷ついたこと、嫌な気分になった事を伝える事が出来ない』という事です。


 例えば、薬を処方して貰ったとして、それを飲むと余計にしんどくなりました。あなたはどうしますか?当然、病院に行ってその旨を伝えるでしょう。きっと担当医は「あなたの体質に合わなかったのですね。別の薬を処方させて頂きます」と言って、別の薬を出してくれるでしょう。


 ではそれが心のケアだったら?あなたは心のケアを担当した人に「あなたの話を聞くと、本当に嫌な気分になります。私の前に来ないでください」と言えますか?


 言えるならまだいいでしょう。きっと担当者は「それはすみませんでした」と言ってその場を去る事でしょう。ですが、私は面と向かってそのようなことを言える人ではないです。

 担当者は心のケアを専門にしている人なのです。その人に「あなたの話は無意味どころか逆効果だ」と伝える事は、その人の生き様を否定する事になってしまいます。




 こうした理由で、私は心のケアが大嫌いです。心のケアは患者の心を癒すばかりか傷つけると思います。しかも、その「副作用」に気付くことなく、心のケアの被害が広がっていきます。

 これはいわば薬害です。たびたび日本でも問題となる薬害問題ですが、心のケアの被害者は自分の被った被害を訴える事ができないまま、この世を去ってしまいます。




 さて、私はこの文章を「つぶやいたー」に投稿する事にします。一人でも多くの人が、この不可視の薬害に気付き、問題を正してくれることを祈ります。






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とあるガン患者 @gannkannzya・たった今


皆様に聞いてほしいことがあるんです。

長文ですが、どうか読んで頂けると嬉しいです。


はっしゅたぐ拡散希望



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