牛の知らせ
硝水
第1話
ああ、来たな、眠れない夜。
照明を落として布団に横になって、ぱっちりと目を開けている。天井の木目が顔に見えてきたらどれだけかマシだったと思うのに、実家と違って、もう、寝室の天井はクロス張りになっている。遮光カーテンの隙間から差し込む街明かりは深夜二時まで煌々と灯っているのは知っていた。画鋲で刺してるアイドルのポスターが、重力に負けてたわんで、その笑顔が不気味に歪む。それだけだ。語りかけてくれたらいいのに、笑うなら。どうせ。
「ばーか」
はやく寝なければ、と思うほど寝られなくなるのもわかっていたし、そもそも、寝なければならないということなんか本当はないはずなんだ。アラームをセットした証拠に文字盤がオレンジに光る時計を見ると、午前一時半。五時間後には家を出ていなくちゃいけない。だから、寝なければ、なら、……そうかぁ?
手探りで紐を引き、照明をつける。蛍光灯の冷たい光が目を焼いて、視界に緑色が飛び散る。
「おはよう」
「だれ?」
「さあね」
「別に寝てなかったから、おはようはおかしい」
「そう、こんばんは」
「こんばんは」
頭の方から声がする。身を起こして振り返る。誰もいない。のそのそ立ち上がって冷蔵庫を開ける。
「ふふ、みつかっちゃった」
「ああ、おまえか」
賞味期限が本日午前中の、牛乳パックが笑っていた。
牛の知らせ 硝水 @yata3desu
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