第2話
何処かの街に、そのパズル屋はある。
店主は、ショートボブな髪型の男装の麗人みたいなヒト。
店内も薄暗い、壁には額に入った何枚かのパズルがある。
人物の顔写真だったり、風景だったり、動物だったり。
客からの写真を元に、オーダーを取り、大きさとピースの形と個数を選んで貰い制作する。
その店の名前は『
今回も前話に出てきた男、
彼は常日頃、カメラを肩に掛け散歩をしている。
毎日続けているお陰か、道行く人とも挨拶を交わせるくらいには馴染んでいた。
町中を散歩し、最後に広い樹林公園へと足を向ける毎日。
お気に入りのベンチへ座り、持参した水筒で喉を潤す。
「あの人、今日もいるな」と視線を少し先にある東屋へ向ける。
三角屋根のある小さな小屋、テーブルを挟んで二人掛けベンチが二台設置されている。
そこの住人かと思うくらいに、風景に馴染んでいる女性。
ここ二週間程かな、
それから毎日、ベンチに座り水分補給をしたら、東屋を見るルーチーン。
偽善と言われてもいいかと思い、東屋の女性に声を掛けてみる事にした。
話を聞いてもらうだけで、先人たちは励ましアドバイスまでくれたからありがたいことだった。
それに
「こんにちは、今日もいいお天気ですよ」と優しく声を掛けた
女性が顔を上げ、
「こんにちは、ナンパならお断りします」
意外に元気あるなと思い
「ナンパではありませんよ、私は
自分を心配してくれていたと気づいた彼女
「ナンパ等と勘違いしてしまい申し訳ありません、私は
お互い軽い自己紹介をする
「それで私に何か?」
「何やら思い詰めていたので、話し相手になれたらと思いまして声を掛けた次第です、もちろんナンパではありませんよ」
とジャブを混ぜ込み笑みを浮かべる
「あまり話せる事ではありませんので」と拒否をみせる
考え込む
「恥ずかしながら自分は少し前に、振られまして落ち込んでいたんですよ、あそこのベンチでね」と自分のお気に入りのベンチを指差す
「そんな時にね、ここ樹林公園へ散歩に来ていた御老人達が来て、話しかけてくれて心が大分楽になったものですから、それを真似てみようかと思いましたが、さすがに無理でしたね」
あははと空笑いした
それならばと、
「
少し思案したが「そうですね、環境を変えるのは大事ですよね、何となくですが従う方がいい気がしてきました」
彼女の心の変化か、あの店の見えない力かは不明だが、意外とあっさり同行してくれた。
樹林公園を出て、徒歩で10分程で二階建て外壁が緑色の異彩を放つ建物に到着した。
この付近でこの外壁の色は浮いているよなと思いつつ、入り口左の壁に『
足元の立て看板にも営業中となっていたので、
店内は間接照明で薄暗くしている、この雰囲気がいいんだよなと思う。
店主が気づき声を掛けてきた。
「
「いらっしゃいませ、ようこそ
そう言えば店主の名前知らなかったな、でもあの笑顔を見ているとどうでも良いと思えるから不思議だ。
ソファーの席へ案内し一旦奥へ、ふんわりと紅茶の香りをまとわせ戻ってきた。
「まずはゆっくりされてくださいね、気分がほぐれましたらでいいので」と笑顔でカウンターへ戻ってきた。
カウンターの下からインスタントカメラ、その場で写真が出てくるあのタイプ。
「許可なく被写体に撮影をするのはマナー違反ですよ」と店主に告げるが
「ここは私が責任を持ちますから、さぁちゃっちゃとやる」
店主には恩もあるから、しかたないなとファインダーを覗き込み、ソファーで紅茶を飲みリラックスしていた
写真が浮き上がってくる、そこには自分の時と同じ様な黒い影が見えた。
店主に渡すと「ストーカー(隠者)・自称彼氏(傲慢)・恨み(嫉妬) そんな気がする」
腕を組み考え込む店主
「お節介かも知れないけど、私は一目気に入ったから手助けしますよ」と
「奥で作業をしてきますから、
あぁ、写真を元にパズルを創るのか、その為の時間だなと、自分にもやってくれた事を思い出し
「気分は
「あ、紅茶のおかげかしら、かなり楽になりましたよ」と頬に赤みが戻っていた。
「店主は少し席を外されましたので、お話の相手でもと思いましてね」とストレート過ぎたかと思ったが既に口から出ているし今更だ。
「通っている大学で、ストーカーしてくる男と、勝手に彼氏だと言う男と、その男に片思いの女性に付き纏われてノイローゼになりそうだったんです」
店主が写真を見た時に言った事と同じだ
「周りにも私が悪女みたいに吹聴されてしまい、学業にも支障が出てきて困って彼らに怒ったんですが、
そうだったのかと気付く
そのまま思考の海へと沈んで行く
数分後、店主が戻ってきて、例の白い箱を出す
「
B5サイズの箱を受け取り蓋を開ける
中には折り畳まれたシートと、表面コーティングする接着剤、袋に入ったピースがあった。
底には先程のインスタントカメラで撮影した写真がある
それを見た
「これはあの人達の写真ですよね、店主さんが何故コレを?」
「それを見て
「それは持ち帰り作ってください、完成したモノを手元に置きたくなければお持ちくださいね」
「あ、料金」
「初回サービスですよ、気になさらずにね」
写真を見つめ何か決意した顔になった
「店主さん
店を出ていく姿を見送る
「あの人も先に進めるでしょうね、あのときの僕みたいにね」と
「それはあの方次第ですけど、素敵な結果になると予測出来ますよ」と店主
帰宅した
「早速組み立ててみようかな」と箱を開けてシートを取り出し、その上でパズルを組み立て始める。
ピースの形はカタカナの「キ」を
「24個24、私が大学へ入り少ししてからだから、あの人達に嫌がらせをされ始めて24ヶ月、まる二年か。」
心がざわめく、でも何で知っているのだろうと疑問が増す。
「少ないのだから、大丈夫ここで頑張らないと、応援してくれた店主さんと
ピースを広げ一つ取る、不思議なもので、ピースが何処へ納まるのかが判る。
「これはここ、これは、うーん多分ここ」と組み立てて行く
「気の
それだけじゃない、なんだろう。
「判ったかも、このピースは写真の絵柄があったのに、正解のピースは写真が消えて真っ白のピースになったよ」
そうかそうかと思いつつ、黙々と組み上げる。
気付くと1時間程集中していた
「出来た、でも真っ白だけどね、店主さんの言った通りね」
完成したパズルをじっくり見る
「私にはもう必要無いわね、店主さんに渡せばいいのかな」
そう思うと手も触れていないのに、パズルが自壊した。
組む前の状態で柄は無くなって真っ白に。
「明日お店に行かなくちゃね」
翌日
記憶を頼りに緑の外壁の建物を探し、迷う事15分無事到着する。
壁には『
「こんにちは、お邪魔します」とドアを開ける
「いらっしゃいませ」
「あの、これお返しします」とカバンから白い箱を出す
「お気持ちの整理は出来たみたいですね」
「はい、すっきりしました」
「では、こちらお預かりします」
箱を受け取りカウンターへ乗せる
「不思議な仕組みのパズルですね」
「ここにはね、心に迷いのある人が
「でも、私は興次さんに連れてきてもらったのに」
「それは、あの人も迷いここに
判ったような判らないような、それでも納得することにした。
「これからも気軽に来て下さいね、一人で考えてしまうと繰り返す事になるかも知れませんから」
「はい、是非寄らせてもらいます」
もう暗い顔はしない、今は元気に明るく生まれ変わった彼女がそこにいたのでした。
「新たに『
了
(*)『
隠れ家の店 工務店さん @s_meito
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。隠れ家の店の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます