隠れ家の店

工務店さん

第1話

何処かの街に、そのパズル屋はある。

店主は、ショートボブな髪型の男装の麗人みたいなヒト。

店内も薄暗い、壁には額に入った何枚かのパズルがある。

人物の顔写真だったり、風景だったり、動物だったり。

客からの写真を元に、オーダーを取り、大きさとピースの形と個数を選んで貰い制作する。


今回はそんな店に、サンプルとして写真を提供してくれる男の話をしよう。


彼は散歩の途中、偶然この店を見つけた。

表に面した窓は無く、壁に店名らしき文字が彫られていた。

『Collegare』

どんな意味と発音なのか、そもそも店なのか、他に看板も出ていないし。

入口のドアを眺めていると、ドアが空いて誰かが出てきた。

出てきた人物はパンツルックで、白いワイシャツにベストと蝶ネクタイとバーテンダーの様にみえた。

ショートボブの髪型が似合う

女性的にも見えるが果たしてどちらか。


彼に気付いた店主が「中へどうぞ」と勧めてくれたので素直に応じた。

普通は初見の人に誘われても、着いて行かないものだがこの時は疑いも無く入ってしまった。


店内に入ると、窓の無い壁に額装された絵らしきものが飾ってある。

キョロキョロと見ていると、店主が紅茶を淹れてくれた。

「お誘いしたのはこちらなので、気楽にしてくださいね」と席を勧めてくれた。

談話スペースなのか椅子とテーブルが用意してあった。

一口紅茶を飲むとふんわりと温かな気分になる。

「こちらは何のお店なんですか?」と尋ねる

少し思案げにしながら店主は答える。

「ここは心に迷いがある方の救済の店です」

そう言われ、彼はピンとくる気がした。


彼は先日、数年付き合っていた彼女に振られた。

それも心を酷く抉られる程にだ。

彼女と付き合えた嬉しさから、写真を撮り始めた。

常に彼女の笑顔があればと、今思い返せばそれが始まりかもしれない。

写真を撮るたび、彼女の笑顔が嘘っぽく見えてきた。

会って会話したり出掛けたりした時の彼女は楽しそうなのだが、

写真に写る彼女は不満顔なのだ、現実の彼女の顔は笑顔で、

ファインダーを覗きみる顔とは別人みたいだった。

まるで彼女の心が写真に出ているような気がする。

振られる1ヶ月前からかな、彼女の写真に変化が見られた。

写真の顔は笑顔なのだが、何故か嫌な笑みなのだ、

普段は仲良さそうに見えて、腹の中では嘲笑う感じがしてた。

その頃から彼女は、他に何人かと付き合っていたらしい。

何故気付いたか、それは彼女の写真を撮った時、後ろや隣に黒い靄で人の形っぽいのが混じるようになったから。 

その後何度かデートを重ね、写真も撮り増やしたが、都度黒い靄の影は増えていた。

振られるとき、最後に写真撮らせてもらったら、黒いシルエットの男と思わしき者が4体見えたよ。


ボーッと思い返していたら、店主が声を掛けてきた。


「貴方のその記憶が、これからを阻害していますから、どうですか、ここで一つ先に踏み出してみませんか?」

彼は見透かされていたと思ったが、解るはずは無いと思い訝しんでいる。

「彼女さんに縛られていては先に進めませんよ」と的確に言い放つ。

彼は動揺しながら思案する、(確かにこのままではいけない)と

「店長さんに言われるまで気付きませんでした、確かにこのままでは駄目ですね」

彼の顔が明るくなるのを見た店主

「それでは、貴方が先に進めるようにお手伝いさせてください」

彼はポカンした顔、頭上に「???」が出ているような

「それはいったい?」

店主は微笑みながら、はっきりと伝える。

「貴方が最後に撮った写真、今手元にありますよね」と断定する

「はい、ここにあります、デジタルは好きではないので」と

テーブルに写真を出す

「今からこの写真を元にジグソーパズルを作らせて貰います」

「ジグソーパズルですか」と答え、ふと気付き額装を見直す。

それらは絵だと思っていたが、全部ジグソーパズルで完成され額装されていた。

彼は額装を指差ししながら

「これですよね?」

店主は微笑みながら

「確かにジグソーパズルですが、ピースの数と形はこちらで決めさせて頂きます」

「何故ですか?」

「このお写真に込められた思いが、数と形を作り出すのです」

「良く解らないので、全てお任せしますよ」

今一つ理解出来なかったが、最良の事をやってくれると判断した。

「ご注文承りました、少々お時間頂きますね」

と満面の笑みで一旦奥へ行き、ティーポットを持って来てくれた。


お茶を飲み待つこと15分

作業が終わったのだろう、奥から店主が出てきた。

B5サイズの真っ白い箱を手に持っていた。

その箱を彼の前に置き伝える

「このジグソーパズルは、家で組み立て下さい」

箱を眺める彼

「完成した絵は自由してください、傍に置いておきたく無い場合は引き取りますから」

そこまで言われてから気付いた

「これの代金はどうしたら」

店主は首を傾げ

「今回は初回のサービスで良いですよ」

彼は「ありがとうございます」と受け入れた。

「またいらっしゃい」と店主に声を掛けられ

ふわふわした足取りでドアをくぐり抜けた。


「新しい門出になるかは、あの人次第よね」と微笑む店主


自宅へ戻り、ソファーに座り、貰ってきた白い箱をみる。

そこで意識がハッキリとした。

今までの一連の事柄が夢の様に思えたからだ。

夢であったとしても、目の前にモノはある。

白い箱、ジグソーパズルが入っているらしい。

開けてみる

一番上に、元にした写真があった、その下にビニール袋に入れられたパズルのピースがあった。

カタカナのキの形の基本ピースと呼ばれるピースと周りを囲むピースで48個か

「48か、確か月に換算したら48ヶ月か、なんであの店主が知って…」

あの店主なら何でも読み取ってしまうかもと思ったら

心が晴れた気がした

「先ずは作ってみようかな」

ピースを箱から出すと折り畳まれたシートと、完成した時の表面をコーティングする接着剤らしきものが入っていた。

シートを広げ早速組み立てる

不思議と手に掴むピースが、毎回上手く組み合わさる、写真は見ていない。

寧ろ組み上がるピースから絵柄が抜ける気がする

実際はプリントされているのに、自分の心からは消えていく。

彼の中を埋めていた彼女の存在が、段々と薄れていく、このまま消えてしまいそうだ。

開始から2時間、外も夕闇迫る頃にパズルは完成した。

彼の目には、真っ白なジグソーパズルになっていたが満足していた。

「明日またお店に行ってみよう」と決めた


翌日

午後になり、パズルの箱を持ち、店に向かった。

店主は来ることを確信していたのか、店前を掃除しつつ待っていた。

「来ましたね、店内へどうぞ」と笑顔

「お邪魔します」と中へ


「その顔は、心が晴れましたね」と店主

少し照れながら

「はい、今まで何で悩んでたのか」

「それでパズルはどうしますか?」と聞かれた

既にパズル面は真っ白になっていたので彼には必要が無い

「僕が組み立てたら、写真が真っ白になりましたから、多分不要なのだと思います」

「そうですか、ではこちらで引き取らせてもらいますね」

箱を受け取る店主

「それでお代はどうしましょう」

首を傾げ思案する店主

「そうですね、でしたら写真の提供をお願いします」

えっと驚く

「写真と言われましても希望ありますか?」

思案顔の店主

「これが良いと思った写真をお持ち下さい、店内に飾りたいですからね」

と笑顔の店主


これが店主と彼の初遭遇の話



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