第13話 愛してる♡
「おはよう♡疲れてたみたいだったね♡よく眠れた?」
三方原くんが目を覚ましたことに気付き、私は優しく笑いかけながら声をかけた。
まだ寝ぼけているのか、三方原くんは「ここは……?」と訊ねてくる。
「何を言ってるの? 私の部屋だよ?」
「……どうして僕は桜庭さんの部屋に……?」
「だって私たちもう付き合ってるでしょ? お家に招待するくらい普通だよ♡」
「付き合ってる……?」
「違うの? 私からの告白、嬉しくなかったの……? 私の事嫌いなの……?」
「嫌いなわけないよ。桜庭さんがそばにいてくれて安心できたし、告白もすごく嬉しかった」
「なら私たち恋人同士だよね?」
「……桜庭さんのことが好きになってるのかもしれない。でも告白の返事はまだ待って――」
「ちょっと何言ってるのか分からないや」
最後まで聞きたくなくて私は言葉を被せて遮った。それから三方原くんのそばまで行き、そっと頬にキスをする。
「あのね……本当はもっとちゃんと三方原くんと過ごしてからにしたかったんだけど……三方原くん自殺しちゃいそうで怖かったから……だから、三方原くんとしたいこと全部しちゃうね?」
「したいこと……」
「うんっ♡愛し合いたいの♡」
私はそう言って優しい笑顔を向けながら「えへへ、見て見て♡」と、自分の左腕を見せた。けど三方原くんはよく分かっていないみたいな反応だった。
「これ三方原くんの左腕なの♡」
二の腕の縫い目を見せる。三方原くんの方の左腕には私の左腕を縫ってある。
「一緒にいられない時があってもずーっと手繋げるの♡」
恋人同士で初めにすることは手を繋いで歩くこと。腕を交換すればそれができる。幸せだね。
それなのに、三方原くんは嬉しそうじゃない。
「どうしてそんな顔するの? 手を繋ぐのイヤ?」
「……繋ぐ繋がないの話じゃない…………」
「じゃあどうしてそんな怖い顔してるの? ……私は三方原くんと手を繋いで歩きたいよ?」
「……なら普通に手を繋げば――」
「あ、でもね、ひとつ謝らなきゃいけないの……三方原くんが踏んだ地面の感触も知りたかったんだけど……ごめんね。足は長さ違うから交換したら歩きづらいかなって思ってやめちゃった」
「……」
「でもねでもね、三方原くんが見てる景色、私も見たいの♡三方原くんも私が見てる景色見たいよね?」
「ど、どういう意味……?」
「三方原くんの目が欲しいの♡私の右目をあげるから三方原くんの右目もちょうだいっ♡」
私は鼻先が触れるほど顔を近付けておねだりをした。でも三方原くんの反応に、私は少し落ち込んだ。
どうして嬉しそうな顔してくれないんだろう……男の子は女の子に可愛くおねだりされるのが好きって本に書いてあったのに。
「三方原くん、まだ少し疲れてるのかな? 顔色も良くないし、嬉しそうな顔しないし……」
「……悪夢であってほしい…………」
引きつった笑みを浮かべながら三方原くんは震えた声でそう呟いた。
「悪夢? 私っていう彼女がそばにいるのに?」
「だ、だったら……僕を固定してるこの拘束具を外してくれると嬉しい……か、彼氏からのお願い……」
まるで脅えているかのような声だ。体の自由が利かないと不安を感じるタイプなのだろうか。でも残念だけど、いくら彼氏からの頼みでもそれは外せない。
「イヤだよ。だって自殺されちゃったら悲しいもん。動けなくても私が――大好きな彼女がそばにいるから怖がらなくて大丈夫だよ♡」
「外して……自殺なんてしないから……」
「ほんと?」
「うん……」
「なら、クラスの子が死んじゃったのは誰のせいか分かる?」
「……僕が、関わったから…………」
「ほら、自分責めてるじゃん。三方原くんは何も悪くないのに。悪いのは全部全部三方原くんに近寄ってきた女共なのに」
「……自殺なんかしない……もうそんなこと考えてないから……だから…………」
「それにね、今から私たちは愛を交換し合うんだよ? じっとしてないと怪我させちゃうかもしれないからまだそれは外せないよ」
私はメスを握る。
「……ごめん、ごめんなさい…………僕が何か気に障ることしたなら謝るから……やめて……」
「気に障ることなんて何もないよ? 三方原くんの全部が大好きだから♡」
私は三方原くんの右目にメスを入れて綺麗に取り出す。私は自分の右目も綺麗に取り出すと、お互いの右目を交換した。
「今はまだ何も見えないけどそのうち見えてくるからね♡三方原くんが見てきた景色を見れるなんて楽しみだなあ♡三方原くんも楽しみだよね?」
私は右目から垂れ落ちる血を布で拭いながら三方原くんに入れた私の右目を指で優しく撫でた。
「……楽しみなわけない」
「なんでそういうこと言うの? ……あ、もしかしてツンデレってやつ? そんな事しなくても私は三方原くんのことしか見てないから大丈夫だよ♡」
優しく頭を撫でたあと、三方原くんの腕に注射を刺した。針から三方原くんの体内の血が少しずつ抜かれていき、血液パックに溜まっていく。
「な、何を……」
「何って、血を抜いてるんだよ?」
「どうして……」
「大好きな人とひとつになりたいからだよ♡私と三方原くんの血を交換したら、体の奥深くまで繋がってるってことになるでしょ? 体の中でも好きな人のこと感じられるなんて最高の幸せだよ♡」
「…………な、何が……幸せだ……もうやめて……許して……」
「許す? わけが分からないよ。私に何を許してほしいの?」
「分からない……もうやめて……死にたくない……」
「死にたくない? 何言ってるの?」
「ち、血を抜かれたら……死ぬ……」
「私の血を入れるから大丈夫だよ♡」
「やめて……だ、大好きだ……桜庭さんのこと、大好きだ……愛してる……だから、もうやめて……」
涙を流している。泣いちゃうほど大好きってことなのかな。そうだったらすごく嬉しい。でも……
「泣くほど私を愛してくれてるなら、私の気持ち分かってくれるよね? 体の中まで好きな人で満たされたいって気持ち、分かるよね?」
「わ、分かる……分かるから……もうやめて……」
「分かってくれるなら、どうしてそんなお願いするの? やめたら意味ないよ?」
「……もし血液型が違ったら…………」
「血液型? 例え違ってても関係ないよ。ねえ三方原くん、愛の力に不可能なんてないんだよ?」
私は自分の腕に注射を刺す。ひとつは自分の血を抜くために。もうひとつは三方原くんの血を入れるために。
私の抜いた血を三方原くんに入れるため、私の血液パックと繋がっている注射を三方原くんに刺す。
私と三方原くんの血が交換されていく。
私の中に三方原くんが入ってくる。大好きな人が入ってくる。それだけで幸せな気持ちになる。
「大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き♡ずーっと愛してるよ♡」
動かなくなった三方原くんを抱きしめ唇にキスをしながら愛を囁いた。
私はあなたと 呉須色 紫 @gosuiro_murasaki
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