第12話 あなたのために

 突然の訪問にも関わらず、三方原くんの母はすんなりと家に上げてくれた。

 三方原くんの母が言うには、三方原くんは冬休み中ずっと部屋にこもっているらしい。

 私は三方原くんの部屋をノックし名前を呼んでみる。すると「……誰」と今にも消え入りそうな返事が返ってきた。


「あの、同じクラスの桜庭だけど……三方原くん、入ってもいいかな……?」


 そう訊ねると、三方原くんは間髪入れずに「やめた方がいいよ」と答えた。


「どうして……?」


「僕に関わると死ぬから……」


「あんなのただの噂だよ。……入るね?」


 私は三方原くんの返事も聞かずドアを開けて部屋に入った。

 部屋の隅、ベッドの上で小さくなっている三方原くんを見つけた。

 私が一番恐れていた、自殺をしたような形跡が一切なかった安堵で、「よかった……」と声を漏らし小さく笑顔を向けた。

 けど三方原くんは私の方に視線すら向けずに「出てって……」と呟くように言う。


「亡くなったのはきっと偶然だから。噂に惑わされちゃダメだよ」


 ベッドに腰を下ろして、三方原くんの手を握る。

 自分でも積極的な行動をしてると思う。手を握るなんて、もっとちゃんと仲良くなってからじゃないとダメなのに……

 三方原くんは振り払おうとしない。だから私はずっと手を握ったままでいた。


「前に図書室でさ、辛かったら頼ってって言ったの、覚えてる?」


「……覚えてる。でも桜庭さんに頼ったら、今度は桜庭さんが死ぬかもしれない……僕なんかに関わらせて不幸にしたくない……」


「私は不幸になんてならないよ。だって……」


 私はその先の言葉を言おうとしたけどやめた。


「あのね、私は三方原くんと話してるだけで幸せだよ? 友達のいない私に声をかけてくれてすごく嬉しかったんだよ?」


「それは桜庭さんが怪我してたから……」


「私は三方原くんに救われた。だから、三方原くんが辛い時少しでも力になりたい。そばにいさせて。……頼りないかもしれないけど……それでも私を頼ってほしい」


「でも……」


「わ、私は……三方原くんのことが大好きなの! 三方原くんがなんと言おうと、私にとって三方原くんが大切なの!」


 意を決して私はそう叫んだ。顔はきっと耳まで真っ赤だったと思う。夏かと思うくらい顔が熱かったから。

 三方原くんの反応はどうだったんだろう。恥ずかしくてまっすぐ顔を見れなかったから分からない。私は三方原くんの返事を待つ。


「……ありがとう。すごく嬉しいよ……」


 涙声だった。溜め込んでいた感情が溢れた三方原くんが落ち着きを取り戻したあと、私は三方原くんの母に声をかけた。お茶を用意してもらい部屋まで持っていく。

 二人でお茶を飲みながら話をした。三方原くんが溜め込んでいた心の内に押し込んだ感情を全て打ち明けてもらった。

 それからしばらくして、ずっと眠れていなかったせいもあって、三方原くんは眠りに落ちた。

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