第11話 不幸
夏休みが終わり二学期最初の日が来た。私はいつも通り誰と話すわけでもなく登校し、教室に入って席に着く。そして朝のホームルームが始まり担任の先生から告げられる。鈴谷さんが亡くなったことを。
誰かが亡くなるのはクラスで二人目。動揺は前回以上だった。
ホームルームが終わると、三方原くんのそばに三人の女子がいた。その三人――愛川さん、三枝さん、笹木さんは確か鈴谷さんとかなり仲が良かったはずだ。
三人とも心配した様子で、顔色が悪い三方原くんに声をかけている。三人は三方原くんと話すことはほとんどなかったと記憶している。だがいの一番に三方原くんを心配していることから想像するに、三方原くんと鈴谷さんが付き合っていると知っているのだろう。
何故だろう。三人とも三方原くんとよく話すわけでもないのに妙に距離が近いように見える。三方原くんの彼女である鈴谷さんがいなくなったことで恋人の枠が空いたと思って近づいているのか、本気で三方原くんのことを心配しているのか、どちらなのだろう。
始業式が終わり、授業が全て終わり、放課後になる。
一日中三方原くんを見ていたが、あの三人と話していることが多かった。ずっとではないけど、休み時間の八割近くはあの三人と話している。
話し相手が常にいれば落ち込んでいたことを忘れられるかもしれないが、それをしても三方原くんの頭の中での、鈴谷さんが亡くなったことに対しての整理ができない。
前向きに考えたり気持ちを切り替えたりするためにも一人の時間を作ってあげた方がいい、と思いながら図書室が閉まるまで本を読んでいた。
それから一ヶ月近く経ち、愛川さんが亡くなった。そこからさらに二週間後、三枝さんが亡くなった。
笹木さんは親友を失ったショックで学校に来なくなった。
三方原くんは毎日学校へは来ていたが、初めて見た時の明るい表情は見る影もなかった。
クラスの人気者だけあって、三方原くんを心配する人は多く、休み時間のや昼休みはみんな声をかけている。
ある時、こんな噂が流れた。
三方原に深く関わると死ぬ。
どこの誰が流した噂なのか、出処は誰も知らない。いつからそう噂されていたのかも分かっていない。
ただ、それが根拠のない噂であることだけはみんな分かっていた。
深く関わる、がどこまでなのかは分からないが、亡くなった愛川さんや三枝さんよりも三方原くんと深く関わっている人はクラスに何人もいる。それなのにまだ死んでいないのだ。
クラスのみんなはそれを「三方原くんの人気を妬む誰かの流したデタラメな噂だ」と言っていたが、三方原くん本人は暗い表情をしていた。
その一週間後、三方原くんとかなり仲の良かった桜川さんが亡くなった。
噂が少しだけ現実味を帯び始めた。デタラメだと言う人は多かったものの、何人かは噂を信じ三方原くんと関わらなくなった。
そのまた一週間後、三方原くんと仲良くしていた夢咲さんが亡くなった。噂なんてデタラメだ、と言う人は半数以下まで減っていた。
三方原くん自身ももう噂を信じてしまっていたようで、優しい言葉をかけてくるクラスの人達に「もう僕に関わらないでくれ」と距離を置いた。
初めはそれを拒んで声をかけてくる人も多かったが、一ヶ月もしないうちに三方原くんの周りから人が消えた。
それからしばらく経ち、冬休みになった。
私は数日ほどで課題を終わらせると、三方原くんにチャットを送った。
一日待ったが既読もつかないし返事もない。
何故だか急に怖くなった。
学校がある時、三方原くんは毎日ちゃんと来ていた。周りに人がいなくなって独りになっても、遅刻欠席などしなかった。常にそこにいた。
でも、冬休みに入ってから三方原くんの姿を見てないし、チャットの返事も返ってこない。ただ関わらないようにしているだけならそれでいい。けど、みんなに優しくて真面目だった三方原くんのことだ。自分が死ねば不幸になる人がいなくなる、なんてことを考えているのではないか、という考えが頭をよぎる。
居ても立っても居られず、私は三方原くんの家へ向かった。
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