第10話 嫉妬
胸が苦しい。泣きたくなる。そんな気持ちを抑えながら私は「いつから……?」と訊ねる。
「夏休み中に」
「そうなんだ……きっかけとか、何かあったの……?」
「……夏休み前に雪野が亡くなって……それで、なんていうか……ずっとそばにいて支えてくれたのが鈴谷さんだったから、多分それがきっかけなんだと思う」
そばにいて支えてくれた……? 実際鈴谷さんがどういうふうに支えてくれてたのか知らないけど私からしたら、人の弱みにつけこんで恋人同士になったようにしか見えない。
大切な幼馴染を失って心の傷は大きかったはずだ。誰かに頼ろうとしてないなら、そっとしておくべきだ。一人で気持ちの整理をする時間が必要だったはずだ。それを理解せず三方原くんに近付いて勝手に支えて心を奪うなんて人間としてどうかと思う。
雪野さんの死を利用するなんて。実は三方原くんに近付くために殺したんじゃないか、と疑ってしまうくらいだ。
全部嫉妬から出た心の言葉。呑み込みたくても呑み込めないし、かといってそれを直接口に出してしまえば三方原くんとの関係は絶対に壊れる。
どうにもできない感情が胸の中で渦巻く。
「そういえばさ……雪野さんが亡くなった時の状況、ニュースでやってたね……」
「そうなんだ……あの時のこと思い出さないようにできるだけニュース見ないでって鈴谷さんに言われてたから知らなかったよ」
「他殺ってことで捜査進めてるみたいだけど、まだ犯人見つかってないって」
「亡くなった雪野のためにも早く捕まってほしいよ……」
雪野さんが亡くなった時、両目をくり抜かれ、四肢が切断され、血を全部抜き取られて河川敷の茂みの中に放置されていた。
自殺とは到底思えない死に方。私の中の暗い感情が漏れ出る。
「雪野さんを怨んでたのかな……それともいなくなって得をする人がいるのかな……」
「……あまり深くは考えたくないな」
「もしかしたら案外近くにいるのかもしれないよね……」
「この話やめよう。こんな話してても楽しくないからさ……」
「そ、そうだね……ごめん」
犯人は鈴谷さんなんじゃないか、と三方原くんの思考を誘導しようとしたけど、これ以上やったら嫌われる。それに、三方原くんの反応からして身近な人が犯人だとは全く思ってない。
そもそも私自身は鈴谷さんが犯人だとは思ってない。ただ、弱みにつけこむような人だから三方原くんに嫌われちゃえばいい、とは思ってるけど。
しばらくは重い空気だったが、楽しい話をしているうちにいつも通りの空気になった。
あまり遅い時間までいるのは悪いと思い、日が沈み始めた頃に私は三方原くんの家を出て家路へとついた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます