第9話 真実
二階建ての家の間取り。寝室は基本的に二階のイメージがある。だから物音には細心の注意を払い、それでいて素早く階段を上り終えて廊下に顔を出した。
廊下は誰もいない。出てこようとする気配もない。
いくつかドアがある。それぞれドアに耳を当てて部屋に人がいるかどうかを確認する。
人の気配がなければ音を立てずにドアを開けて部屋の中を確認する。
……違う。
私はすぐにドアを閉める。それから隣のドアに耳を当てて人がいないことを確認してから部屋の中を見た。
ここだ。
私は部屋に入り、置かれているものを物色する。それから深呼吸をした。
三方原くんとひとつになってるみたい……三方原くんの匂い……好きぃ……
頬が緩みっぱなしで、時間を忘れそうになる。
匂いなんかで喜んでてまるで変態みたいだけど、臭かったら三方原くんの匂いでも臭いと感じる普通の人間……だと信じたい。
三方原くんの部屋に来た目的は匂いを嗅ぐためじゃない。
私はカバンや机の中、クローゼットなんかの中を物色する。それから目的を果たした私は即部屋を出た。
あまり時間はかかっていない。多分怪しまれないはず。
リビングに戻り「少し迷っちゃった」と笑いながら三方原くんの向かいに座る。反応を窺うが、特に怪しんでいる様子はない。
「そういえば鈴谷さん、大丈夫かな……」
「少し心配ではあるよね。昨日も熱出てたみたいだし」
「昨日……? 昨日会った時暇してたって言ってたけどもしかして……」
「ああ、うん。会う約束してたんだけどね、体調悪いって言われちゃって」
「そうなんだ……」
なんとなく寂しそうな表情の三方原くんに、私は意を決して一昨日のことを訊ねる。
「あの、一昨日三方原くんと鈴谷さんの姿を見て……その、私が深入りすることじゃないかもだけど……ふ、二人はどういう関係なのかなって……楽しそうに話してたし、距離が近そうに見えたから、気になって……」
もっと簡潔に言うつもりだったのに、言い訳みたいに余計なことをぐだぐだと言ってしまった。嫌な顔をされるかな、と思っていたら三方原くんはそんな顔をしないどころか、少し照れくさそうな表情をしていた。
その反応だけでなんとなく次の言葉が予想できたし、ああやっぱりそうなのかな、と心の中でため息をついてしまった。
「一応、付き合ってる……」
十数秒ほどの沈黙の後、三方原くんがそう答えた。
できれば信じたくなかった事実。でもその真実を知らないままでいるのも嫌だった。
昨日私が二人で課題やりたいって話をした時に鈴谷さんを誘った理由、きっと他の女の子と二人きりでいるのは彼女に申し訳ない、と思ってのことなんだろう。
おめでとう、なんて言葉は私には言えなかった。
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