第2話 レストラン支配人の手料理を頂く

 2人の後を付いていくと、私がいた部屋から2個隣の部屋に案内された。部屋を見渡すとダイニングキッチンの内装をしている。中央に置かれたテーブルには、椅子が8脚並んでいる。

 ルフと並んで椅子に座り、レオンさんはキッチンに向かっていく。


 隣に座っているルフは話ずらそうにしているので、ここは私が話しかけるべきなのかな。とは言っても、私も普段こういう場では黙ってしまうタイプなので、特に内容が思い浮かばない。ここは流れに沿って、料理の話をするのが無難かもしれない。

「お父さんの料理好き?」

 たじたじとしていたルフは私の方を向く。

「うん!美味しいから!何でも大好きなんだ!」

「そっか!良かったね」

 にこやかに答えてくれるルフの様子を見る限り、本当に大好きなのだろう。レストランの支配人をやってるぐらいだから、調理の腕は磨きがかかっていると思う。


 料理を待っていながら思ったけど、レオンさんお店に居なくて大丈夫なのかな。支配人だよね。厨房か、フロアで指示してるイメージなんだけど。

 ルフに、確認してみると、今日は母親であるミフィさんという方が担当しているらしく。レオンさんは、書類整理をしていただけらしい。それなら、良かったけどミフィさんには後で会った時にお礼を伝えよう。


 ルフと一緒に、レオンさんの料理の話をしていると、私の料理の話になった。

「ナギさんはお料理するの?」

「お料理は好きだけど、私は特にお菓子作りが好きかな」

「おかし・・・?そういう食べ物があるの?」

 あれ・・・?もしかして、日本どころかお菓子すら通じてない。ルフは、10歳ぐらいだけど小さいから、もしかして食べたことないのかな。

「聞こえてきたんですが、ナギさんはお菓子を作られているのですか?」

 悩んでいると違う所から、驚きの声が返ってきた。

「よく作りますけど、そんなに驚かれることですか?」

 ほぼ毎日作ってる私にとって、そんな驚かれることとは思わなかった。日本でも、ほぼ毎日と言われる驚かれるときもあるが、結局お菓子作りが好きということで落ち着く。


「なかなかここでは作っている人は少ないですからね。あまり食べる機会ないんですよ」

 えっ・・・?!普通に私ほぼ毎日食べてたよ。健康には悪いかもしれないけど。

「でしたら、もしかして王都でパティシエをしているのですか・・・」

「私は趣味で作っているだけなので、働いたことはないですよ」

 家で作って、自分で食べるか、誰かに食べてもらうだけだ。いつかパティシエになりたかったけど、それは遠い夢の話。

「なるほど。でしたら、その二ホンという国では一般的に食べられているものなんですね。お菓子は貴族が食べているものという印象が強いので」

「そうなんですか?私がいた所では、誰もが食べていましたよ。」

 もしかして、お菓子が高級品と思われているのかな。物によっては、材料費がかかるけど簡単なものはそれほどかからないはずだけど。

 レオンさんの話している限り、この世界って貴族と平民差がかなりあるのかな。他には、どんな違いがあるんだろう。町の探索をするときにでも、確認してみよう。



 ルフは一体何歳なのだろう。10歳ぐらいのような、もう少し幼そうな気がする。

「ルフって何歳。あっ、ルフって呼んで良かった?」

「8才だよ。良いよ!ルフは、なんて呼んだらいいの?

 ナギさん?それとも、ナギちゃん?」

「言いやすい方で良いよ」

「なら、ナギちゃんかな!」

 何だか、ルフが弟のように思えてくる。

「聞くのも悪いと思うのだけど、ナギさんは何歳ですか」

 レオンさんが料理を持ってきながら、聞いてきた。別に年齢を気にすることもないので、詐称する必要はない。20歳以上なら20代ですとか誤魔化したかもしれないけど。

「15歳ですよ」

「お若いですね。私なんてもう、アラサーになってしまいましたよ。」

 アラサーって確か、30代後半だっけ。直訳すると、30歳の後のはずだからあってるよね。多分。

「あの年の差的にも、敬語じゃなくていいですよ」

「良いんですか?お客様として接している感覚だったので」

「はい。あと別になぎって呼び捨てしてもらって大丈夫なので」

 年上の人に、さん付けされると変な感覚がするからだ。私の提案に、レオンさんは素直に納得してくれた。


 テーブルの上に料理が広がり、レオンさんは向かいの席に座る。

 出てきたのは、パンとポトフとハンバーグ。完璧にファミレスで出るような洋食のセットである。日本の名残からか、ハンバーグにパンというのがどこか違和感がある。パンはバターロールのようだ。

 今は食べられるだけでも有難いので、そんなことは言わない。レオンさんにお礼を言って、ご飯を食べ始める。

「頂きます」

「お口に合えばいいけど」

 ぽつりとレオンさんが口を漏らす。

 ハンバーグをナイフとフォークを使って切ると、煮汁がじゅわりと溢れてくる。これは、本当にご飯が欲しい。

 一口食べると、ジューシな肉汁が口に溢れてくる。美味しい。流石は、レストランの支配人だからこそのプロの技だと思う。

「美味しいです!こんなに肉汁が溢れるハンバーグ初めて食べました」

「そんなこと言って、他にももっと美味しいのあるだろう。でもありがとう。」

 レオンさんは恥ずかしそうにしながら、ご飯を食べている。


「やっぱり人から美味しいって言われると、料理人として嬉しいものだな」

「その気持ち凄くわかります」


 手料理は、感想を貰えるのが一番うれしい。食べてもらうまで、不安になってそわそわしてしまうけれど、感想は知りたくなってしまう。

 美味しいと言われれば、勿論嬉しいし今後の励みになる。

 逆に、美味しくないとか口会わないっていう意見も、個人的には参考になるから好きだ。自分が美味しいと思っても、人それぞれによって味覚は違う。だから、誰もが食べておいしい味を作るには多くの意見を取り入れたい気持ちがある。

 稀に悪口言いたいだけの人もいるけど、そういう類の人は相手にしなければいい。線引きが難しい所だけどね。


 レオンさんも料理人として、沢山修行を積んできて今があるのだろう。じゃないと、こんなにおいしい料理は作れないと思う。

「ちなみに、ナギは料理をするのか。お菓子は作るというのは聞いたが」

 料理の話をしていると質問が飛んできた。

「料理はしますけど、たまにですね。お菓子作りが殆どなので」

「そんな作っているんだな」

「まぁ、趣味ですから」

 それぐらいしか言いようがない。


「ナギちゃんのお菓子食べてみたいなあ」

 ルフが興味深そうに、私を見ている。

「作ってもいいんだけど、レオンさんの許可次第かな」

 私的には問題はないけど、場所と材料の問題がある。


「別に全然構わない。寧ろルフと同じで私も興味がある。」

「でしたら、キッチンお借りしても良いですか」

「ああ、かまわないぞ。材料も好きに使ってもらって構わない」

 一応、この世界の物価が分からないからそう言われても回答に困る。日本では安いものも高い可能性だってある。

 大丈夫だと思うけど、もしものことも考えて怖いから確認して使おう。


 ひとまず、頂いた料理を食べながら、何を作るかを考える。

 パンの材料から考えるに、卵と小麦粉とかはあるみたいだから、パウンドケーキが良いかな。でも、聞く限り型がないかもしれない。食パンとかを焼いている型があれば、代用が効くかもしれないけれど、サイズが大きすぎるから火が通り切るか不安だね。

 そうなると、無難なクッキーかな。あれなら、混ぜて焼くだけだからすぐにできて簡単である。それにルフに、好きな形に切ってもらえれば、一緒に楽しめるかもしれない。

 作るときは、楽しいのが一番だからね。


 料理を食べ終わり、お礼を伝えキッチンへ向かった。

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空想パティスリー~パティシエになりたかったので、異世界でお菓子販売始めました~ @kaede_tu94

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