魔女様へのお手紙を添えて
せてぃ
伝書猫
「……じゃあ、これをお願いしますね」
そう言って、天空神教会最高司祭『聖女』シホ・リリシアは、相手の首元にある筒上の入れ物に手紙を差し込んだ。短い手紙だが、これたけで意味はわかるはずだ。あの魔女ならば。
シホが首元から手を離すと、相手はにゃーん、と応えて喉を鳴らした。シホは離した手を戻して、左手で喉を、右手で頭を撫でてやった。
「ああ、ヒメ、こちらにお邪魔していたんですね」
そう言いながらシホの執務室に入室してきたのは、浅黒い肌の優男だ。ヒメ、と呼ばれたのは執務机に座ってシホに撫でられている彼女で、優男の声に黒、茶色、白、三色の純毛に覆われたしなやかな体躯をぴん、っと伸ばして、途端に緊張した様子を見せた。
「ああ、ほら、ヒメさん、大丈夫ですよ」
「まったく、シホ様にはよく懐いているのに、おれにはさっぱりですよね、この猫」
「ルディの何かがわかるのかもしれませんよ?」
「えっ……」
思い当たることでもあるのか、優男……シホの身辺警護を担う近衛騎士であるルディ・ハヴィオが胸に手を当てる。シホはその姿を見ながら、少々いたずらっぽく微笑んで、またヒメの頭を撫でた。
「フィッフスさんへのお手紙はお渡ししました。持っていって下さるそうです」
「『魔女』殿が寄越した『伝書猫』ですが……猫という獣は、こんなにも懐いたり、言うことを聞く生き物でしたかねえ?」
ルディがそう言うと、ヒメがあからさまに不愉快そうな顔をしたので、シホは彼女を抱き上げて、執務机の椅子に座った自分の膝の上に抱いて乗せた。
「まあ、そんなことを言ったら失礼ですよ。ヒメさんのお陰で、フィッフスさんとはずいぶん連絡がとりやすくなったのですから」
「そりゃあ……そうなんですがねえ……こいつ、本当にただの獣なんですかね……って、うわっ!」
言い切る前に、ヒメが突然飛び掛かったので、ルディは驚いて身を引いた。
失礼だ、とでも言うように、真っ直ぐ立てた長いしっぽをぷんぷん、と揺らしながら、三毛猫『伝書猫』ヒメは執務室を出ていった。
「ああ、こら、ちょっと!」
「ルディ、大丈夫ですよ」
彼女という猫の手を借りた結果、『母』との連絡は密になり、こうして懐いてくれることで、不思議と心が安らぐ時間を持てるようになった。
もしかしたら、この時間も、『母』がわたしを案じて用意してくれた結果なのかもしれない。
「大丈夫。ヒメさんはいまからフィッフスさんのところへ行ってくださるそうです」
「あの猫がそう言ったんですか……?」
「そう言ったような気がします」
そう言うものですか……と腑に落ちない顔をするルディに、シホは微笑んでみせた。
魔女様へのお手紙を添えて せてぃ @sethy
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