飾り物はいらない
荒川馳夫
そのようなものより、欲しいものがある
「はい、これで大丈夫。ケガは少しずつよくなるからね」
「ありがとうございます。先生」
とある貧しい国で、一人の男が働いていた。
ニュース番組で貧困にあえぐ国の現状を目の当たりにした彼は、その国へ向かう計画をつくり、そして実際に行動した。
初めこそ、外国人である等の理由でいわれのない悪口を投げかけられることもあった。しかし、彼の献身的な活動を見た現地人は意識を改めた。
「この方は我々を助けにきてくださった。まるで天使のようなお人だ」
「私たちなんかのために……。本当にありがとうございます」
感謝を伝える言葉が数多く、彼に伝えられた。
だが、彼はいつもこう答えるのだ。
「ワタシは大した存在ではありませんよ。ただの一人間にすぎませんので」
そのような生活を繰り返して数年が過ぎた頃、彼にある知らせがもたらされた。
彼の実績に対し、メダルを授与するとの話だった。
「すごいことじゃないですか。あなたは称えられるべき人なんですから、受け取るべきですよ」
彼の活動に付きしたがう、活動家の女性はそう進言した。心の底から彼を尊敬していたからこそ、メダルの授与式に参加するよう促したのだ。
気の進まない様子で、彼はこう返事をした。
「ワタシが国を離れるわけにはいかない。活動に支障がでるかもしれないのだ」
「ですが、私たちの活動が世界的に認められるんですよ。せっかくのチャンスです。素晴らしいことをしている団体があると知ってもらえるのですから」
その言い方に、彼は不満そうな顔をした。それ以上は何も言わなかったので、活動家は彼の心中を察することができなかった。
彼はメダル授与式の行われる国に、飛行機で赴いた。
しかし、彼がメダルを授与される映像は世界に報道されることはなかった。
彼はメダルを受け取らなかったのだ。主催者や団体がメダルを首にさげるように言っても、かたくなに拒否した。
彼は何も手に入れることなく、さっさと活動拠点のある国へと帰っていった。
「ピカピカのメダルなんかよりも食料や医療器具をください、か。ふん、名誉よりも貧しき者のための活動を選ぶとは」
「ああいった人間は好かんね。我々富裕層だって金を貧しい国に寄付しているではなか。十分に貢献しておるだろうに」
「直接来て、現状を見てみろとも言ってたな。とんでもない!あのような危険な場所にいけるものか」
「せっかくメダルを授与すると決めたのに、なんてやつだ」
手助けよりも自身の名誉を求め続ける、団体の従業員たちは彼を陰でののしった。
彼は授与式の後も、困っている人々のために働き続けた。自身のことを顧みることはなかった。だが、そんな彼の人生は突如、終わりをむかえた。
とある武装集団から賞金首のリストに登録され、襲撃されてしまったのだ。
彼は銃撃を受け、あっさりと亡くなった。
「今なら、あなたが言いたかったことが分かります。先生」
かつて、メダルを受け取るように勧めた女性はポツリと言った。
「有名になれば、狙われる可能性が高まる。そうなれば活動は中断する。それを心配していたんですね。しかし、変な話です。貧しい人々を救うことに何か不都合なことがあるのでしょうか?どうして、潰してしまおうとするのでしょうね……」
世の中への疑問を誰にもぶつけることができず、彼女は憤った。
そして、決意した。
「それでも……、それでも活動は続けます。私が後を継ぎますから!決して、途絶えさせたりはしませんよ」
飾り物はいらない 荒川馳夫 @arakawa_haseo111
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